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カタン、と小さく何かにぶつけた感覚で目が覚める。ゆるりと瞼を持ち上げて体を起こせば、眩しい橙色が目を眩ませた。
意識がはっきりしてきた途端に、耳奥に優しく静かなメロディが流れ込んでくる。イヤホンが吐き出す心地よいクラシックが、寝起きの星來の心に染みわたっていった。
「あら、ようやく起きたのね」
ぼんやりと放課後の教室内を見つめていれば、すぐ隣から落ち着いた声が聞こえた。イヤホンを外しながら横を向けば、隣の席で読書をしていた百鬼夕咲がこちらを見つめていた。
「ごめん、寝ちゃってたみたいで……」
星來は目を擦りながら苦笑した。
机上には、音楽プレイヤーと筆記用具。どうやら、日誌を提出し終えた後、親友を此処で待っている間に眠ってしまったらしい。
「いいのよ。疲れていたのでしょう?結構魘されてたわ」
「ほんと?」
「ええ。それに、良くない色が見えたわ。大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
間違いなくあの夢のせいだな、と曖昧に微笑を押し出しながら、星來は音楽プレイヤーの電源を切った。
ここ数か月で見るようになった夢は、未だ途絶えることはない。見知らぬ狐面の少年が出てきたり、自分の過去の記憶を辿ったり……なにかと不思議な夢ばかりだった。
「夢を見るって、言ってたかしら」
思考をそのまま読み取られたかのような言葉に、星來は小さく肩を揺らした。
「うん。今日も似たような夢だった」
「そう……。何か得たものはあった?」
「全然。相変わらずよく分からないまま。あの夢が俺に何を伝えたいかも分からないし……」
星來は小難しい顔をして眉根を寄せた。段々と鮮明にはなっているように見えるが、夢はいつもぼんやりと霞んでいる。全てがはっきりと見えるようになった時、新たな何かが発見できるのだろうか。
「そういや、律夜は?」
「まだ帰ってきてないわ。先生にでも捕まってるんじゃない?」
「あー……五限の時、爆睡してたもんね」
「よりにもよって担任の授業なのに。そのうえ、委員会まで同じなのにね。まぁ、自業自得だけれど」
「だね」
委員会のついでに説教を喰らう律夜の様子が安易に想像できた。思い浮かべながら二人で笑えば、どこかで誰かがくしゃみをしたような気がした。
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