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「ただいまー……」
星來と夕咲が他愛も話に笑い合っていれば、律夜が疲労感の滲む顔つきで教室に入ってきた。とぼとぼとした足取りで、二人の許へやってくる。
「あ、やっと帰ってきた」
「お疲れのようね。説教でもされたのかしら。灰色が見えるわよ」
夕咲が指摘すると、律夜が頭を掻きながら不機嫌そうな顔をする。
「話長いんだよアイツ……髪染めるなとも怒られたし……これは地毛だっつうの!」
夕焼けに似た鉛丹色の髪を指さして、律夜が叫喚した。
「律夜っていつもそれ言われてるよね」
「なんかオレのこと信じてくれないんだよな。染めてるのはむしろ、せいちゃんの方だっていうのに!」
「蓮水くんは日頃の行いがいいから見逃されてるんじゃない?」
「オレも日頃の行い別に悪くないけど⁉」
揶揄い混じりの夕咲の発言に怒ったように喚く律夜は、そう叫んだ後に盛大な溜息を吐いた。「信用ないよなぁ、ほんと」と不満そうに呟き、そうして、のんびりと星來の前の席に腰掛ける。
「音楽聞いてたの?」と、机上に置かれた音楽プレイヤーを一瞥した律夜が尋ねた。
「うん。まぁ、いつの間にか寝ちゃってたんだけどね」
「子守唄でも聞いてたん?」
「違うよ。クラシック」
星來が答えると、律夜が目を丸くして「クラシック?」と復唱した。
「意外だな、せいちゃん。ちなみに何聞いてたの?」
律夜に問われ、星來は音楽プレイヤーの表示を見せながら答える。
「ノクターンだよ。ショパンの遺作である第二十番」
「ほえ~全然分からん!」
「だよね、律夜だもん」
「どういう意味⁉」
呆れたように音楽プレイヤーをしまう星來がそう言えば、律夜は必死な顔で声をあげる。「そのまんまの意味だよ」と星來は悪戯に笑いながら返した。
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