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変 貌
次の日、学校に登校する。
男女の生徒の群れの中に紛れて、オートメーション装置のように意思に関係なく歩いていくようだ。俺は耳に、スマホとBluetoothで接続したイヤホンをつけて、古いJ-POPを聞いている。女子高生達の黄色い声が苦手なので、それを遮断する目的もある。
俺の通う高校は、昨年までは男子校であったが、俗にいう少子化により近くにあった女子高と合併した。男子生徒達は、その言葉通り両手を挙げて喜んでいたが、実際に男女共学になって、恩恵を受けたのは一部の男子生徒達だけであった。
モテない君は、男子校だろうが、共学だろうが、その位置はあまり変わらないようである。
ただ、クラブ活動等は女子の応援が加わったお陰か、飛躍的に成績が良くなって、万年初戦敗退校であった、我が野球部も春の県大会に出場するほどとなった。
その躍進に異性の力は凄いものだと驚愕したものだ。
ちなみに偉そうに講釈を垂れている俺も、モテない君の派閥に属する。
校門の近くに辿りつくと、そこに小比類巻の姿が見えた。制服の袖の部分に赤い腕章をつけている。どうやら、何かの役員でもやっているようであった。
俺と彼女の目が合う。昨日の余韻を思い出して俺は少しだけ口角をあげて、誰にも気づかれないように、小さく会釈する。
なぜか、小比類巻は鋭い目つきで俺を睨みつけたかと思うと、ツカツカと歩みよってきた。その行動に驚いて俺は足を止めた。
小比類巻は、俺の目の前に立ち止まると、自分の耳の辺りを指さす仕草をした。俺は意味が解からず、眉をひそめながら首を傾げる。
「痛って!」それに痺れを切らせたのか、彼女は両手を伸ばして、俺の耳から無理やりイヤホンを毟り取った。俺の両耳に激痛が走る。
「学校内での、こういうものの使用は禁止!次に見つけたら没収!」それは、前から俺が抱いていた『小比類巻 保奈美』そのままの雰囲気であった。
「まだ、校門潜っていないから校内じゃねえし!」俺は、小比類巻の手の平からイヤホンを奪い返す。
「口答えは無し!私に逆らったら後悔するわよ!」威圧的な態度、昨夜とは全く別人の様相であった。一瞬でも、コイツの事を可愛いなんて思った事を激しく後悔する。
「なんだよ、昨日助けてやった件は無しかよ!」言いながら、自分が小さい男だなと自己分析してしまう。
「昨日?何のこと。話をはぐらかさないで頂戴!とにかく、次見つけたら、没収よ!記録しておいて大黒さん!」小比類巻は、同じ腕章をつけた女子の名前を呼んだ。
「はい......」大黒という名前らしい女子生徒が力ない返答をした。その返答を聞いて、その場所に人がいた事を初めて知り驚愕した。大黒という女子の顔を見ると、彼女は俺から視線を逸らすように下を向いた。
彼女は、お世辞にも可愛いといえるような風貌ではなく、前髪は長く目の辺りを覆っていて、頬には沢山の雀斑、スタイルも所謂、寸胴という感じであった。
失礼だが、なんだか幸が薄そうだなというのが、俺の感想であった。
「判りました!気・を・つ・け・ま・す・!」嫌味満開でその言葉を、小比類巻に言い放った。
「ふん!」髪の毛をかき上げながら、荒い鼻息を残して、彼女は校舎のほうへ歩いて行った。大黒という女子生徒は、俺に軽く会釈をすると、小比類巻の後を追うように、走っていった。
彼女の走っていく後ろ姿を眺めながら、どこかで見た事があるような感覚に捕らわれる。思い出そうとしたが、さきほどの小比類巻とのやり取りで、少しカッとなって、思考が回らなくなっていた。
兎にも角にも、小比類巻の変わりように、やはり女は怖いものだと改めて痛感する出来事であった。
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