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女の涙
モヤモヤした気持ちのまま、校舎の中に入る。
下駄箱の中の上履きを取り出そうと覗き込むと、手紙のような物が目に入る。
「またか......」俺は、大きなため息をつきながら、その中身を読む。
『仮屋崎君へ、放課後、体育館の裏で待っています。きっと来てね♡』
その手紙を読むと俺は、右手で握りつぶしてポケットの中に詰め込んだ。男女共学になってから、このような悪戯が多くてウンザリしている。
どうせ、手紙を真に受けて体育館の裏でも行こうものなら、全校生徒の晒し者になることを俺は熟知している。
下駄箱の向こうで俺を見ている女子達の薄笑いを、俺は気づかないふりをして、教室に向かった。
手紙をポケットにクシャクシャにして入れた瞬間に、彼女達の顔色が変わったが、きっと俺を晒し者にする作戦が失敗して、残念がっているのであろう。
俺は心の中で、ざまあみろと舌を出した。
「よっ!カリやん、おはよう!」同じクラスの悪友が声をかけてくる。
「おお、ノーチンか、おはよう!」彼の名前は、野澤文雄。あだ名はノーチンである。陽気な男であるが、剣道部の主将を務めて県大会でも名の知れた剣豪である。怒らせると怖いやつだ。
「カリやん、またラブレターもらったみたいだな。モテモテで羨ましいぜ」言いながら、野澤は俺の背中は、勢い良く叩いた。
「い、痛い!ラブレターって、あんなもの悪戯に決まっているだろう!俺は馬鹿じゃないぜ」言いながら俺は、顎に手を当てて、カッコ良くポーズを決めた。
「また、そんな事言ってるのか......、まあ、どうでもいいけれど。そういえば、カリやん校門で小比類巻さんと揉めていたみたいだな」野澤が俺の席の真正面に座る。
「ああ、あの嫌な女.......、本当に嫌味な奴だな、あいつ」忘れていた憎しみが沸々と蘇ってくる。
「嫌な女って、みんな小比類巻さんと喋りたくて、必死にチャレンジしてるのに......」言葉尻から、野澤自身もその一人と言いたそうだった。
「俺は御免だね、あんな恩知らずな女」腕組みをしながら背もたれに体重をかける。
「恩知らずね......、なんかあったのか?」野澤は興味深そうに覗き込んできた。
「別に、何もない」説明するのが面倒臭くて誤魔化した。
「おはよう......御免なさい、そこ私の席なんだけど......」野澤の座る席に向かって女子生徒は小さな声で囁く。
「おお、悪い、悪い!」野澤は慌てるように、席から飛び退いた。
「ありがとう......」幸の薄そうな声であった。
「あんた、さっきの......、大黒......さんだったけ?」俺は咋に敵対心をむき出すような声で言った。
「今更、何を言ってるんだよ、大黒さんは、前からお前の前の席に座ってたじゃないか」野澤は、なぜか自信満々の様子であった。
「さっきは、ごめんなさい......」大黒が、突然に陳謝の言葉を口にした。長い前髪の奥の瞳は、なぜか涙で濡れているようであった。
「い、いや、別に構わないけど......、実際、実害もないし」さすがに、泣いている女の子に文句を言うほど、俺も常識知らずではないつもりだ。
「ごめんなさい.......」もう一度、その言葉を口にすると彼女は俺に背を向ける。
「お前、酷い奴だな!女の子を泣かせて!」野澤は、俺を卑下するように言い放った。その口元はにやけていることを俺は見逃さない。
「うるせい!俺は何もしてないよ」俺は少し大きな声で反論する。
シーンと静まり返った、教室の中にシクシクと泣く声が聞こえる。俺の前の席で、大黒が泣いているようであった。
「お、おい......、どうした......、大丈夫か?」少し心配になり、目の前の席で泣き続ける大黒に声をかける。しかし、大黒は机に両腕は組み頭を垂れて、泣き続けるだけであった。
「やっぱり、カリやんが怖いのだろう?」野澤は、なんだか楽しそうに言い放つ。
「あのなあ!」俺がそう言うのと同時に、大黒は大きく頭を横に振った。
「ちょっと、いい?」背後から急に声がする。振り返るとそこには、別の女子が三人ほどいた。「大黒さん、具合が悪いみたいだから、保健室に連れて行くわ」そう言うと、泣いている大黒の腕を、強く掴んで無理矢理に立たせる。
「お、おい!」俺はその様子を見て、なんだか大黒の事が心配になった。
「大丈夫よ、こういう事は、女子に任せておけばいいのよ!」三人組は、授業が始まる事を気にもかけていない様子であった。そのまま、大黒を連れて教室を出て行った。
「おい、なんなんだ、あいつら?」野澤が聞いてくるが、俺にその答えが解るはずもない。
「知らねえよ。でも、あの三人組、俺の下駄箱に手紙を入れて、笑いものにしようとしてた奴らだ」俺は思い出したように呟く。
「ああ......、俺、大黒さんが連れて行かれた原因が解ったような気がする」野澤は、何かに閃いたかのように左の手の平を、右コブシで叩いた。
「原因?なんだ、原因って?!」俺には何が何だか解らない。
「お前だよ!」野澤は、俺の後頭部を平手で叩いた。
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