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もしもパンツをはいていたらver
「可愛らしいわねあなた……アラタさん、だったかしら。
パンツはどんなものをはいているの?」
カクテルグラスを揺らしながら、横目で美少年・アラタに視線を向けて聞く、m氏。
アラタは少し恥ずかしそうにうつむきながら、耳を赤く染め、その問いに答えた。
「きょうのパンツは……タータンチェックのボクサーをはいてるんだ。……私の、お気に入り……」
カウンターにのの字を書くアラタに、m氏は意味ありげな表情で頷いた。
「実はそのパンツが、今、私の手のなかにあるって言ったら驚くかしら」
「えっ?」
アラタは反射的にm氏の方へと顔を向け、目に飛び込んできた光景に驚いた。
m氏の手に、しっかりと握られているもの。ーーそれは、紛れもなく今日アラタがはいてきたぱんつだった。
「えっ、なんで、私のパンツが……?」
「ふふ。ビックリした?」
自分が今ノーパンだと気づき、真っ赤になってうつむくアラタに、m氏は満足げな笑みを浮かべ、微笑んだ。そして懐から新品のクマパンツを取り出し、アラタに差し出す。
「ノーパンで帰るのは忍びないでしょう。これ、記念品よ。私が認めたイケメンにしか渡さないパンツなの」
「あ、ありがとう……」
アラタはおずおずとパンツに手を伸ばし、それを受けとると、まるで宝物のように胸にぎゅっと抱き締めた。そのようすをみてm氏は満足げに頷き、カクテルをあおる。
「予告状は今あなたが飲んでいるカクテルの下にあるわ。記念に持って帰ってね」
m氏の一言に、マスターのアヤセは冷静に突っ込みをいれた。
「いや、パンツ返してやれよ」
鋭く突っ込みをいれつつ、ワイングラスを拭くマスターに、m氏が意味ありげに視線を送る。
「あら、マスターも私にパンツを盗られたいの?」
その瞬間、マスターアヤセはワイングラスをシンクに置き、アイスピックを手に取った。
「……m氏、なにか言い残したいことは?」
アイスピックを光らせながら淡々と脅すマスターに、m氏は滝のような汗を流しつつ、両手をあげて降参した。
「……冗談よ、冗談」
m氏の返答に満足したマスターは、静かにアイスピックを元の位置に戻し、再びワイングラスを手にした。その様子にほっとしたm氏は椅子に座り直すと、カクテルを片手に持ち、流し目でマスターをみて言った。
「ほんとA氏ってば、照れ屋さんね」
「照れてはいない。」
マスターのアヤセは、ブスッとした仏頂面で一言そう断言すると、ワイングラスを照明に当て、くもりがないか確めた。
そんなマスターにふふっと妖艶な笑みを浮かべるm氏。アラタはm氏の横顔にドキドキしつつ、手にしたノンアルコールカクテルを一気に飲み干した。
ーーこのあと、七ページへとつづくーー
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