28人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「……クロさんが、ちっとも構ってくれないんだ……。私たち、本当に恋人なのかな……」
「素敵な恋人同士に見えるよ」
マスターが慣れた手つきでシェイカーのなかに、レモンスカッシュと梅ジュース、つなぎにリンゴジュースを少しいれて蓋を閉め、軽やかにシェイカーを振りはじめた。対面に座るアラタはうっとりとした目で、マスターの鮮やかなシェーカーさばきを見つめている。
「そんなに見つめられると、はずい……」
マスターのアヤセは、ジトッとした目つきで、物言いたげにアラタを見つめて言った。マスターのいつものツンデレが発動したのだ。ほんのり耳が赤く染まっている。
「マスターの手捌きを見るのが好きなんだ。
……見てたら、ダメ?」
上目使いでこてんとこ首をかしげ、訊ねるアラタはとても可愛らしく、さすがのマスターもダメだとは言えなかった。
一通りシェイクし終わった後、カクテルグラスに中身を注ぐ。金色の液体がシュワッと泡立ち、その中心に天使の羽の形をもしたグミをひとつ、ちょこんとのせると、マスターのアヤセはカウンターにカクテルグラスを置いた。
「おまたせ。特製カクテル、『ドレッドノート・ミハノハンラ』。あと、ツマミのグミね」
カウンターに置かれたカクテルと天使の羽型グミを受けとると、アラタはニヒッと笑った。
「やっぱりグミを食べないと始まらないや」
アラタはグミをひとつまみし、そのまま口に運んでもきゅもきゅと頬張りはじめた。それに合わせて、ノンアルコールカクテルを一口、飲む。アラタにとって、至福の瞬間だ。
最初のコメントを投稿しよう!