barのマスターは今日もツンデレ。ーアラタ編ー

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「……クロさんが、ちっとも構ってくれないんだ……。私たち、本当に恋人なのかな……」 「素敵な恋人同士に見えるよ」  マスターが慣れた手つきでシェイカーのなかに、レモンスカッシュと梅ジュース、つなぎにリンゴジュースを少しいれて蓋を閉め、軽やかにシェイカーを振りはじめた。対面に座るアラタはうっとりとした目で、マスターの鮮やかなシェーカーさばきを見つめている。 「そんなに見つめられると、はずい……」  マスターのアヤセは、ジトッとした目つきで、物言いたげにアラタを見つめて言った。マスターのツンデレが発動したのだ。ほんのり耳が赤く染まっている。 「マスターの手捌きを見るのが好きなんだ。  ……見てたら、ダメ?」  上目使いでこてんとこ首をかしげ、訊ねるアラタはとても可愛らしく、さすがのマスターもダメだとは言えなかった。  一通りシェイクし終わった後、カクテルグラスに中身を注ぐ。金色の液体がシュワッと泡立ち、その中心に天使の羽の形をもしたグミをひとつ、ちょこんとのせると、マスターのアヤセはカウンターにカクテルグラスを置いた。 「おまたせ。特製カクテル、『ドレッドノート・ミハノハンラ』。あと、ツマミのグミね」  カウンターに置かれたカクテルと天使の羽型グミを受けとると、アラタはニヒッと笑った。 「やっぱりグミを食べないと始まらないや」  アラタはグミをひとつまみし、そのまま口に運んでもきゅもきゅと頬張りはじめた。それに合わせて、ノンアルコールカクテルを一口、飲む。アラタにとって、至福の瞬間だ。
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