barのマスターは今日もツンデレ。ーアラタ編ー

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「こんばんわ、クロさん。 ナイスタイミング」  クロさんと呼ばれた黒猫は、にゃあと一言短く鳴くと、アラタの膝に軽やかに飛び乗り、同族であるm氏を威嚇した。 「く、クロさん……。 どうして、ここが……?」  クロさんはぶっきらぼうにニャアと鳴くと、m氏に見せつけるように、アラタの膝の上で毛繕いを始める。その行為が、アラタには愛してるよという意味に伝わり、彼の瞳から涙がこぼれ落ちた。 「クロさん……、匂いを辿って、迎えに来てくれたんだね。ありがとう。  私、寂しかったんだ。クロさんに愛されてる自信がなくて……。でも、違ったんだね」  クロさんは優しい声色でなーんと鳴くと、涙が伝うアラタの頬をペロペロとなめだした。そんな二人の様子を見て、マスターは静かに微笑む。 「どうやら、心配することもなかったみたいだねえ。クロさん、そこの泣き虫、さっさと連れて帰って。店が辛気くさくなっちゃうから」  マスター・アヤセの一言を聞き、クロさんはにゃーと短く鳴くと、アラタの膝から飛び降りた。出口へ向かって数歩歩くと、ふと後ろを振り返り、アラタへと視線を送る。 「マスター、私、帰るよ。お勘定……」  ズボンのポケットから財布を取り出したアラタを制し、マスターのアヤセは言う。 「今日は奢るよ。仲直りできてよかったね」  アラタはマスターに頭を下げると、そのままクロさんと店を出ていった。仲睦まじい二人の背中を見ながら、m氏がため息をつく。 「なーんだ。狙ってたのに、お相手がいたのかぁ。つまんないの」  m氏はくいっとカクテルをあおると、空になったグラスをマスターのアヤセに突きだした。 「おかわりっ。くやしいからもう今日は飲むわよ!  今度は『ミハノハンラ』で」  カクテルグラスを受け取りながら、マスターは楽しそうに言った。 「ダイエットはいいの?」 「明日から頑張るから、いいの!」  m氏はカウンターに突っ伏した。
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