明日なんて来なくていい

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「ねえ、綺麗な夕焼け! 明日も晴れだね」  野々花が橋の上から夕陽を指差してこちらを向いた。橙色に染まったその笑顔が痛々しくて、俺は野々花を思わず抱きしめた。 「晴人?」  野々花は戸惑うように俺の名を呼んだ。 「馬鹿。無理して笑わなくていい」  俺は野々花を離さずに言った。野々花の力が抜けるのが分かった。 「……ダメだよ。こんなこと。 明日から晴人は私のお兄ちゃんになるんだから」  野々花が静かに言った。俺は野々花を抱く腕をいっそう強めた。  そう。俺と野々花は明日から兄妹になる。  俺たち二人はいわゆる幼なじみ。俺の父と野々花の母親が仲のいい友人だったから、家族ぐるみでの付き合いがあった。生まれた時からずっと一緒に育って、お互いいつの間にか惹かれ合った。こんな未来が来るとは知らずに。  乳がんで早くに亡くなった母が悪いわけじゃない。浮気して出て行った野々花の父親は完全に悪いけど。  残された俺の父と野々花の母親がお互い支え合う中で、友人以上の関係になっても仕方がないのかもしれない。でも、俺と野々花はそんなの望んでなかった。こんな形で家族になるなんて、残酷すぎる。 「そんな呼び方されたくない」  かすれた声が出た。 「だって晴人の方が一ヶ月先に生まれたんだもん。仕方ないじゃん」  茶化すように言う野々花の声が震えてる。 「そういう意味じゃない! 分かってるだろ?」 「分かってるよ。分かってるけど、どうしようもないじゃん! 私たちには何も、できない、よっ!」  野々花が泣きながら言った。 「俺は野々花以外好きにならない。ずっと一緒にいる」  俺は泣いて体温の上がった野々花をさらに抱きしめて誓った。 「……そんなの、無理だよ。 でも、嬉しい。晴人。私、晴人が好きだったよ」 「分かってる」   俺は野々花の頬に両手を添えて、口付けた。野々花は拒まなかった。  明日から俺たちは兄妹。  空が紅に滲む中で、俺たちは最後の抱擁を交わした。           了
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