私はアナタを愛し続けます

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高校3年4月29日(昭和の日) ゴールデンウィークかあ いつもの日曜日と同じく、朝から晩まで部屋に籠り、勉強やネットゲームをする。 それが僕の寂しい休日の過ごし方である。 部屋に夕陽が差し込んできた。 あ〜もう夕方か 僕は玄関を出て、近くの橋に向かって歩き始めた。長野の田舎町で唯一誇れる景色を、橋の上から眺める事が、たまに行う僕の息抜きである。 橋からは壮大な南アルプスの山々と、橋の下を流れる川に夕陽が反射して幻想的な景色が目に飛び込んでくる。 この様に景色を眺めていると、学校での嫌な事も、将来の不安も忘れられる。 ? すると川の上流から何かプラスチックのおもちゃの様な物が流れて来た。 僕はその浮遊物を目で追いかけて、橋からその浮遊物が何なのか覗き込む様に見ていると チャリンチャリン! 自転車のベルの音がした。 そしてすぐに ガシャ! 今度は自転車が倒れる音がする。 川の下を覗き込んでいた僕は慌てて、振り向こうとした時に、一人の少女が僕に抱きついて来た。 ! 「死んじゃあダメ!」 ? 抱きつかれた事でバランスを崩す。 危うく本当に落ちそうになってしまったが、何とか踏みとどまる。 「危ないよ!」 と声を荒げると、その少女は涙を浮かべながら、 「死んじゃあダメだよ」 と激しい口調で僕に言ってきた。 そうか僕が川に身を投げると思っていたのか。 僕は少女の行動を理解した。 でもこの娘は・・・同じ中学だった菊永さん? 「大丈夫だよ。ただ川を見ていただけだから、上流から流れて来た浮遊物を見てたんだ」 すると彼女の顔は真っ赤になって 「そうだったの、ごめんなさい。」 と謝罪しながら、倒れた自転車に向かって歩き出す。 すると彼女の膝から出血した血液がふくらはぎの所まで流れている事に気づく 「ねえ、僕の家、すぐそこだから傷の処置をしてあげるよ。」 彼女は遠慮したが、少し強引に彼女を家に連れて行く。 そして家に有る救急箱を取り出して、傷薬を傷口に振りかける 「痛い!」 「あっごめんね。」 と言いながら、すかさず大きな絆創膏を傷口に当てた。 「痛かったよね。 ごめんね。 でもこれで大丈夫だから」 彼女は僕の顔を見つめて 「あれ?君は同じ中学校だった「岩永 秋(イワナガ シュウ)君?」 僕の事を知っててくれたんだ。それもフルネーム ちょっと照れ臭そうに 「うん」と答える。 「背が大きくなったから、一瞬誰だか分からなかったわ」 間髪入れずに質問がきた 「私の事分かる?」 「うん、菊永 咲(キクナガ サキ)さん」 「凄い、下の名前まで知っててくれたんだ」 彼女が僕のフルネームを知っていた方が不思議だと思うけど・・・ 彼女は立ち上がり 「今日はありがとうね。今度お礼させてね」 と言い、自転車に乗って帰って行った。 彼女の後ろ姿を見送りながら 夢の様な時間だった と心で呟いた。 そして5月5日 今日は僕の誕生日である。 だからと言って特に用事も無く、いつも通り家でネットゲームをしていると、玄関のチャイムが鳴る。 両親が居なかったので、僕が玄関を開けると、何と菊永さんが立っていた。 「はいこれ、プレゼント。似合うか分からないけど、服を買ったんだ」 と大きな袋を差し出してきた。 「えっ僕に?」 すると彼女が少し赤らめた表情で頷いた。 その表情に僕の心臓が激しく脈打つ。 この前会ってから続いていた、胸のモヤモヤが何だったのか、今この瞬間、彼女に恋していたのだと、はっきりと分かった。 鼓動が更に早くなって行く。 顔が赤くなる。 暑い すると菊永さんが 「ねえ、橋に行こう」 僕は心臓がもたないよと内心思ったが 離れたくない僕は彼女の誘いに頷いた。 橋に着くと、 「いつも通っている道だけど、改めて見ると、ここっていい場所ね」 僕は頷く事しか出来ない。 「どうしたの?この場所嫌い?」 嫌いという言葉が響き、慌てた僕は 「そんな事無いよ!この橋も菊永さんも好きだよ!」 えっ! 何言ってるんだ! ・・・沈黙が続く すると菊永さんが、 「私も岩永君を好きになっちゃったみたい」 と笑顔で言った。 えっ 本当に? 夢? そこから僕達の交際が始まった。 5年後9月 二人共、東京の大学を卒業して1年が過ぎていた。 大学を卒業してからは、東京で就職して住まいも一緒に暮らす様になった。 9月22日から9月24日までが休日になっており、二人で帰省する事になっていた。 そして最終日の9月24日は咲の誕生日で、僕はその日にプロポーズをする予定である。 9月22日「土) 東京のアパートから車で、生まれ育った長野県に向かう 「咲、ごめんね。運転させちゃって」 「いいのよ。私、運転が好きだから」 と笑顔で答える 運転が苦手な僕の事を気遣い、そう答える彼女を愛おしく思う。 唐突に 「咲、愛してるよ」 一瞬、戸惑いを見せたが 「どれくらい?」 僕が愛してると伝えると、必ず返ってくる咲の言葉である。 「海より深く愛してるよ」 すると満面の笑みを浮かべる。 そんな咲の笑顔を見るのは僕は大好きだ 車は長野に入り、そして実家に近付くと、咲が二人の思い出が詰まっている橋を見て騒いでいた。 二人の間では、この橋の事を二人の場所と呼んでいた。 二人の場所を過ぎると直ぐに実家に着いた。 助手席のドアを開けて 「じゃあ9月24日の17時に二人の場所だよ」 とドアを閉めた。 よし!完璧だ! 実家に入ると親に会社の事や東京での生活の事を話して、まったりとした時間が流れる。 しばらく話した後、部屋に行ってクローゼットを開けると、クローゼットの下に付き合うきっかけとなった咲からのプレゼントの服が置いてあった。 貰った時は少し大きかったので、着ないでとってあったが、今なら多分ピッタリでは? 着替えてみる。 おおーピッタリだ。 咲にも見せてあげたいな この姿を見て喜ぶ咲の笑顔を想像する。 リビングで母さんに話し掛ける 「ねえ母さん、何か買い物無いかな?」 「う〜ん、そうねえ。じゃあナノマートに行って、刺身でも買ってくる?」 「うん、いいよ。じゃあ父さんの車を貸してよ。」 「あんた運転大丈夫なの?」 「免許あるから大丈夫だよ。」 僕は咲にLINEをする。 「今からナノマートに買い物行くけど、ちょっと咲の家に寄るね」 咲から「気をつけてね」 と書き込みがあった。 まったく心配性だな 家を出て両脇が田んぼの道を2kmぐらい走ると咲の家がhm ある。 そして、そこから3kmぐらい走った所が目的地のナノマートであった。 僕は車に乗り込み、ゆっくりと県道に出て、法定速度の40kmで走行する。 よし!後ろに車はいない!  (咲) シュウは車の運転が苦手なので、心配で外に出てシュウが来るのを待っていた。 しばらくすると、シュウの家の白い軽自動車の姿がyこのx反対車線の大型トラックが視界に入る。 急ブレーキを掛けるのだが、間に合わずシュウの車に突っ込んだ。 道路を横断して止まっているトレーラーと挟まれてしまい、見るも無惨な姿に変わっていた。 「シュウ!」 私はシュウの車に駆けつける。 「 おーシュウ!」 「お願い返事をして!」 とにかく名前を大声で呼び続けた。 そして警察、救急車や消防車が来て、シュウの救出に取り組むものの、まるで動かないシュウを車から引き出した。 救急隊の無線連絡で聞きたく無いワードが聞こえる 「心肺停止」 私は体中の力が抜けて、その場にうずくまった。 何も考えれない これは現実? 何で? 現実を受け入れるのが怖い 私は、ただただその場所で、お腹に手を当てながらうずくまる事しか出来なかった。 翌日 シュウの両親から亡くなった事と遺体は検死に出しているので、9月24日の午後に実家に届く事を伝えられ、現実を突きつけられたになり、この日も部屋を出る事なく過ぎ去って行った。 9月24日11:00 私の携帯にシュウの母親から電話が入り、午後2時に遺体が届く事を聞かされる。 2時かあ ただこの亡くなった事を知ってからの約2日間で、一つだけ決めた事があった。 私は両親がいる居間に向い、両親に話し掛けた。 「お父さん、お母さん、ちょっと話があるの」 両親は何を言おうとしているのか分からず、息を飲んで頷いた。 「私のお腹にはシュウの子供がいます。 私はこの子を産もうと思ってます。」 父は戸惑っていたが、結局、産む事に賛成してくれた。 そして午後2時 父の運転でシュウの家に着くと、ちょうど家から警察官が出て行くところであった。 シュウが帰ってきている でも見たくない 見たくないよ! 家に入ると線香の香りが充満している。 線香の匂いが漂う所に向かって歩いていくと棺が目に飛び込んでくる。 あそこにシュウが・・・・ 棺まで3,4歩の距離なのだが、足が言う事を聞かず前に踏み出せない。 するとシュウのお母さんが、私の手を握り 「咲さん、ごめんね。私が買い物を頼んだばかりに、こんな事になってしまって」 と涙を流しながら話し掛けてきた。 「いいえ。何か私に見せようとしていたみたいなんです。ただ、それが何か分からないんです。」 「何か服を着替えて出て行ったわよ」 「服ですか?」 「あそこのビニール袋に入っている服よ」 えっ!この服は・・・ 私はビニール袋の結びをほどき、ビニール袋の中に入っている服を取り出した。 あっ!シュウに初めてあげた誕生日プレゼントの服だ。大きくて高校の時には着れなかった服だと直ぐに分かった。」 これを私に見せようとして・・・・・ 涙が溢れてくる。 いつもと同じ様に、笑顔で見せびらかそうとしたのかな? そんなシュウの姿を想像すると、涙が次から次へと溢れ出す。 私はシュウの服を持ったまま棺に行き、まるで寝ている様なシュウを見つめる。 シュウ・・・ シュウの母が「シュウの部屋に行く?」 と言われて、頷くと私を誘導してシュウの部屋に案内される。 部屋に入ると勉強机の上に、指輪ケースが置いてあり、その横には赤い花が置いてある。 何となくプロポーズを装う感じがあったので、9月24日にプロポーズを受けるのかなと思っていた。 やっぱり、そうだったのね そして、シュウの両親の所に行き、お腹を摩りながら、二人の子供を産む事を伝えた。 シュウの両親も快く受け入れてくれた。 その後は、お互いの両親と一緒にお茶を飲みながら会話が弾んでいく。 父達のお茶はお酒に変わり、母達も会話が弾みながら、おつまみを作っている。 まるで一つの家族のようだ。 シュウもこの光景を見たかっただろうな どれぐらい経ったのだろう、辺りは夕陽に包まれる。 時計を見ると時計は5時を刺していた。 9月24日午後5時 シュウと待ち合わせの時間だ。 「ごめんね。ちょっと外に出てくるね。」 私はシュウの家を出て、プロポーズされる筈だった、橋の中央に立つ。 南アルプスの山頂近くからオレンジ色に輝く淡い夕陽が辺りを照らす。 この場所で私達は出逢い、そして恋に落ちた。 それからの二人で過ごした日々が、走馬灯の様に想い出されて行く。 「咲」 えっ! 私の目の前にシュウの姿が写し出される。 えっ! 私は突然の出来事に呆然とする。 シュウは近づいて来て、私を包み込む様に抱いた。 そしてシュウの声が聞こえる。 「咲、ごめんよ」 まぼろし? でも強く私を抱く温もりも、そしてシュウの声も、確かに本物だ。 「咲、愛してるよ」 「どれぐらい?」 「体が無くなっても、いつまでも君を愛してる」 「シュウ・・・」 涙が頬を伝って地面に落ちる。 「私も愛してるよ。シュウの体が無くても、私はシュウを愛し続けるわ。 だからお化けでも、何でもいいから私のそばにいて!」 すると、抱きついている手が緩み、シュウの顔が目の前に現れ、シュウの顔が近づいてきた。 私は目を瞑る。 するとシュウの唇と私の唇が重なった。 そして目を開けるとシュウの姿は消えていた。 シュウ・・・ 5年後の5月5日 シュウの誕生日を祝うため、息子と一緒にお墓に訪れる。 私はお墓に花を飾る。 「ねえママ?何で真っ赤なお花だけパパにあげるの?」 「この赤い花はね。パパがママと結婚する時にくれた花なのよ」 「ふーん。何で花なの?」 「これは菊って花なの。私はあなたを愛してます。って言う意味を持ってるのよ」 「ママはパパの事を愛してるの?」 「うん。海よりも深く愛してるわ」
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