契約

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契約 とある若者が悪魔の宿る鏡を手に入れた。 見ず知らずのみすぼらしい老人から高値で買わされたものだ。 酷く酔っていたこともあり、上手くあしらえずにあれよあれよという間に話がまとまってしまった。 一晩経って激しい二日酔いと後悔に苛まれながらも、彼は教わった悪魔を呼び出す手順を試してみることにした。 道具を揃え部屋の明かりを落とし、定められた時間に呪文を唱える。 特に何が起きるでもなく、時が止まったような静寂が部屋を包み込んだ。 落胆とともに少しでも期待をした自分を恥ずかしく思いながら彼が視線をふっと切り替える。 確かに先ほどまで何もなかった空間に悪魔が立っていた。 それはまさしく悪魔としか形容できないような風貌をしていたのだ。 「あなたの願いを3つ叶えて差し上げましょう。代償としてあなたの最も大切なものを頂きますが。さぁ、あなたは私に何を望みますか?」 ゆっくりと彼の方を向きながら、こともなさげに悪魔は説明してみせた。 まるで嘘のような話だが、この超常的な瞬間を前に若者は疑うことを忘れて悪魔に願う。 「金を!世界中の誰にも負けないくらいの金持ちにしてくれ!」 「承知いたしました」 「それから、俺を不老不死にしてくれ!悪魔ならそれくらいできるだろう」 「容易いことです」 「最後に、だ。望みの数の上限をなくしてくれ。こういうのだって構わないだろう?」 「本当にそれが3つ目の望みで良いのですね」 「できないのか?」 「いいえ。私に不可能はありません。望みは幾つでも叶えて差し上げますが、3つ叶えたので一先ず代償は頂きます。リターンも先延ばしに、とは承っておりませんので」 そう言うと悪魔は若者の手にあった鏡とともにふっと消失した。 若者が呆気にとられていると、玄関のチャイムが激しく押された。 表には屈強な警官たちが待ち構えており、若者はあれよあれよという間に世界中の銀行をクラッキングした凶悪犯として逮捕されてしまった。 以来、決して歳をとることのない男は永劫の時を堀の中で過ごしているという。
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