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「さあ、乗って。凍えちゃうよ」
「思ったより雪が降ってるな」
「うん、今朝からちらちら降ってたんだけど昼前に降りがかなり強くなって。佐樹くんたちタイミング良かったね。これでもいまちょっと弱くなったところなんだよ」
進む道は雪の轍ができているので少なくとも五センチくらいは積もっている。このまま降り続けば十センチ、もしかしたらそれ以上積もるかもしれない。それでも昔に比べたら雪が減ったような印象がある。
「優哉くん久しぶりだね。元気そうで良かったよ」
「ご無沙汰しています。またお会いできて嬉しいです」
「うん、僕もだよ。みんなも帰ってくるの楽しみにしてたんだよ。前から大人っぽかったけど雰囲気がさらに落ち着いたね」
のんびりとした空気の中で保さんと優哉は笑みをこぼす。自分の家族と彼が穏やかに過ごしているのを見ると安心した気持ちになる。五年前の夏以来だからもう少し緊張した感じになるかもしれないと思ってた。
しかし優哉がいないあいだもわりと話題に上ることも多かったので、それほど驚く結果ではないかもしれない。
「そういえば詩織姉は暇してたみたいだけど蓮は?」
「ああ、蓮はお義母さんにべったりでね。詩織は出番がないんだ」
「息子さんいくつになったんですか?」
「このあいだ二歳になったところ。だいぶおっとりしてるんだけど、ぜひ構ってあげて」
ずっと子供のいなかった長女夫婦に息子が生まれたのは二年前の冬。待望の初孫に母も大喜びであれこれと世話を焼いていた。旦那さん譲りで大人しい男の子だけれど頭のいい子でとても可愛い。
しばらく母が姉の家で手伝っていたのだが、帰ったあとは僕がなにかと用事を言いつかって訪ねることが多かった。顔を合わせるといつも喜んでくれて、初めての甥っ子に僕もわりとメロメロになっているところがある。
「佳奈ちゃんも結婚してお婿さんをもらったから一気に賑やかになったよ。美佳ちゃんも元気だしね」
「それはいいですね」
「母さんは孫が二人も生まれて毎日上機嫌みたいだ。僕は佳奈姉の赤ちゃんには二ヶ月くらいの時に一度会ったきりだけど」
すくすく初孫が育っていた中で佳奈姉の結婚話が上がったのはわりと最近だ。相手の人とは二年くらい交際していたようなのだが、突然の結婚はいわゆるできちゃった婚で、妊娠がわかってから結婚まで本当に早かった。
いまは七ヶ月の女の子を子育てしている真っ最中だ。夏に初対面したけれど佳奈姉と旦那さんのいいとこ取りでこの子もまた可愛くて、あれこれ言われると財布を開いてしまうくらいには叔父馬鹿だ。
子供は昔から可愛いと思ってきたが、身内の子となると増し増しで可愛く思えてくる。時雨さんが優哉のことを大事にする気持ちがいまならよくわかる。自分がこの先、子供に縁がないこともわかっているから、余計と言うこともあるかもしれないけれど。
しかしそれが寂しいことだとは思っていない。僕は僕の生き方をする、それだけだ。幸運にも家族はみんなそれを受け入れてくれた。愛情をかけられる子供たちもいる。幸せのカタチは人それぞれだろう。
「そろそろお腹空く頃じゃないかい? お義母さんがお雑煮とお汁粉を作っていたよ」
「うん、ちょっと空いてきたかな」
お雑煮なんてしばらく正月に帰ってきていないから全然食べていない。最後に食べたのは優哉が旅立つ前に作ってくれたやつだ。醤油仕立てのお雑煮だった。バイト先の料理長さんが作ってくれたものをお手本にしたらしい。
母が作るのはすまし汁だったからちょっと新鮮で、具だくさんですごくおいしかった。
「よし、到着だよ、お疲れさま。寒いから早く中に入っちゃいな。みんな待ってるよ」
「ありがとうございます」
「保さん、わざわざほんとにありがとう」
「うん」
車が家の前に駐まると保さんに促されて二人で先に下りる。そして駅に着いた頃より降りが強くなった雪から逃れるように玄関へと急いだ。カラカラと戸を引けばふわっと暖かい空気が流れてくる。それにほっと息をついた瞬間、大きな声に出迎えられた。
「サーキ! おかえり!」
いきなり響いた声に肩を跳ね上げると、視線の先にいる人は両手を広げてにっかりと笑みを浮かべた。
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