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玄関で待ち構えていたのは座っていてもわかる手足の長い男の人。ブロンドの髪に青い瞳、顔立ちから見てもすぐに外国の人だというのがわかる。人なつっこい笑みを浮かべて手を広げるその人の膝では、小さな男の子がこれまた可愛らしく両手を広げて待っていた。
ニコニコと笑顔で迎えてくれたのは長女の愛息と次女の旦那さんだ。普段から海外を行ったり来たりしていた佳奈姉だからこその国際結婚。いまはまだ婚姻だけで戸籍は一緒ではないが、帰化の要件を満たしたら手続きする予定でいるらしい。
「アレク、蓮、ずっとここで待ってたのか?」
「そう、レンと一緒に待ってた」
「さっちゃ、まってた!」
おそらく保さんが家を出てからここでずっと待っていたのだろう。玄関には絵本やラクガキ帳が散らばっている。それを見て僕は驚いてしまった。外よりもだいぶ暖かいとは言え玄関先だ、寒さは入ってくる。
身体を冷やしはしないかと思うが、よく見ると二人とも中綿がたっぷり入った母特製の半纏を着ていた。幼い甥っ子はほっぺたの色も良くてさほど寒さを感じていないように見える。
「サキ、おかえり! ユウヤ、はじめまして! ボクはアレクシス・ベイカーだよ」
戸口で立ち尽くす僕たちにアレクはニカッと笑って立ち上がる。そして小さな蓮を片腕に抱いてまっすぐに右手を差し出した。彼の勢いに一瞬気圧された感じはあるが、目を瞬かせてから優哉はその手をしっかりと握り返す。
「はじめまして、橘優哉です」
「やあ、マムが自慢してただけある。サキのパートナーはとってもハンサムだ」
「ありがとうございます」
「うん、素直なところもいいね」
ストレートな言葉に照れたように笑う優哉に好感を持ったのか、握られた手は勢いのままぶんぶんと縦に振られる。わりとアレクは感情表現が飛び抜けたところがあるので驚く展開ではないが、この状況に戸惑っている恋人に助け船は出してしまう。
とっさに二人の手を押さえるように両手を載せると、アレクは目をぱちくりさせ、優哉はちょっとだけ苦笑いを浮かべた。
「アレク、そろそろ。……優哉の腕が取れそうだ」
「あっ、ごめんごめん。会えて嬉しかったからさ」
「ありがとう」
慌てたようにぱっと手を離したアレクはしゅんと申し訳なさそうに眉尻を下げる。けれどその子供みたいな表情に思わず吹き出せば、二つ年下の義兄はお日様みたいな笑顔を浮かべた。この裏表を感じさせないまっすぐさがとてもいいなと思う。
明るくて話好きなアレクはいるだけで周りを賑やかにしてくれる。母と姉しかいなかった家は彼のおかげで毎日が大騒ぎなのだそうだ。それがとても楽しいと母はよく言っている。
「みんな、なにしてるの? 寒いから家に上がりな」
「あ、タモツおかえり」
「ぱぱ! おかえり」
いつまでも三人で顔を突き合わせていると僕らの後ろから保さんがやってくる。玄関をのぞき不思議そうに首を傾げる彼に、アレクの腕で大人しくしていた蓮が顔を華やがせた。両手を目いっぱい伸ばして甘えるその姿に大人たちの顔が緩む。
父親に似てほんわりとした空気の息子はさらさらの黒髪に一重だがぱっちりめの黒い瞳。お人形のような可愛らしさがある。
「蓮、お兄さんに挨拶したかい?」
「おにーたん?」
「ばあばが言ってただろ。さっちゃんの大事な人だよって」
きょとんとして首を傾げる蓮は目をパチパチさせて人差し指を口元に当てる。んー、と眉をハの字にして考える仕草まで可愛い。なにをしてうちの子が可愛いと思う僕は相当だ。けれど本人は一生懸命なのだろう。ぐるぐると考えているのがわかる。
「ばあば、ゆうにゃっ!」
ふいにぱっと灯りを付けたように表情を明るくした蓮は、ぴんと伸ばした人差し指を優哉に向けた。得意気だが、ちょっと舌っ足らずになった彼の言葉に恋人は思わずと言ったように笑みをこぼす。
「蓮くん、よろしく。……って、佐樹さん?」
「ん、ごめん、我慢できなかった」
小さな手を優しく握ってやんわりと微笑んだその瞬間を見過ごせなかった。おもむろに携帯電話を構えてシャッターを切った僕は優哉に困ったような顔をされ、義兄たちに微笑ましそうな顔をされる。
それでもなおもう一枚! とねだると甥っ子と恋人のツーショットが撮れた。いそいそと保存したそれはお宝フォルダに格納される。
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