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翌朝起きたらまだ熱は下がっていないようで寝苦しそうにしていた。移るといけないからとマスクしているのも余計に熱がこもって苦しいのかもしれない。汗を拭いて額に冷却剤を貼り付けると少しばかりしかめていた顔が和らいだ。
昨日の晩はほんの少し口にしたけれど、それ以前は食事を摂っているのかが疑問だ。熱が高いのでいまは食欲も湧かないだろう。昨日の晩に母親にメールをしたらゼリーやすりおろしたリンゴなどは消化にも良いと教えてくれた。
寝ているあいだに駅前のスーパーでリンゴと栄養補助食品のゼリー、レトルトのおかゆを買って、自分の朝ご飯は適当に済ませた。
「そうだ、氷枕を取り替えてやらないと」
冷凍庫で冷えているそれをタオルで巻いてから寝室を覗くと、目が覚めたのか視線がこちらを向く。顔を覗いたら熱のせいで瞳がやはり潤んでいる。頭を撫でるとほっとしたように目を細めた。
「ちょっと胃にもの入れて風邪薬を飲もう。病院は、僕もついていこうか? 一人だと身体辛いだろう」
「大丈夫です。いま時期は風邪もインフルも流行ってるし、病院で佐樹さんがもらってくると良くないから」
「ほんとに大丈夫か? うーん、じゃあ、タクシーで行けよ」
「はい、わかりました」
おろしリンゴとゼリーを食べて薬を飲ませたあとはまたウトウトしてきたので、病院が開く頃合いに目覚ましをかけてやる。しかし正直言うと心配で仕事に行く気にならない。
とは言えここにいてもしてやれることはほとんどないので行くしかない。サイドボードにおかゆを買ってあることと病院へ行ったら連絡することをメモして置いておく。
咳や腹痛、吐き気などと言う症状はないようだから熱が下がれば良くなるのだろう。普段しっかりとしている人が弱っている姿を見ると心配は割り増しだなと思った。
「あれ、センセ、今日は遅いな」
「ああ、うん」
学校へ着くとまず初めに峰岸と視線が合った。普段ならとっくに学校へ来ている僕がまだ来ていないのを気にしていたようだ。曖昧に返事をしながら席についたら傍に寄ってきた。
「なんかあったのか?」
「……ん、優哉が昨日熱を出して、かなり高熱で寝込んでるんだ」
「あー、あいつのことだから風邪を引いてるのにも気づいてなかったんだろ」
「うん、全然自覚がなかった。びっくりした」
話を聞けば学生時代にもよくあったそうだ。今回みたいな高熱ではなかったようだが、ぼんやりして色んなことをやらかしていたらしい。
電柱にぶつかるとか、なにもないところでつまずくとか、階段から足を滑らせるとか。それを聞くと案外優哉もとんでもないなって思う。
「なにごとにも完璧って言うイメージだった」
「え? ないない、あいつあれでいてだいぶ人間らしいぜ」
「そうなのか、まだ僕に気を使ってるのかな」
「んー、まあ、男として格好つけていたいのはあるんじゃねぇの?」
その気持ちはわかるけれどもう少しリラックスと言うか、気を抜いた感じで過ごしてくれれば良いのに。どうせなら家にいるのが一番くつろげるのが望ましい。わりといつもピシッとしているから、もっとだらけていても問題ないんだけどな。
これからずっと一緒にいるわけだし。もっとたくさん甘えてくれていいし、我がままも言ってくれていい。
「飯は?」
「朝にすりリンゴと栄養ゼリーは食べさせた。昼間はレトルトのおかゆを置いてきたけど、夜はなにを食べさせよう」
「食欲が戻ってきてるようなら雑炊とかうどんとか?」
「僕にでもできるか?」
「料理は?」
「……まったく」
窺うような目につい視線が逃げてしまった。母親にカップラーメンを作るのが精々とまで言われたことがあるように、基本的に僕は料理が得意ではない。目玉焼きくらいは作れるけれど、いつも固焼きだ。
切ってちぎって盛るくらいならお手の物だが、雑炊か。
「おかゆを米から作れって言うよりかは簡単だと思うぞ。冷やご飯を使って醤油かだしで煮るだけだ」
「ふぅん」
あとから携帯で検索するつもりでいたけれど、峰岸が簡単なレシピを教えてくれた。木綿豆腐としらすと梅干し、あとはご飯と卵があれば言いそうだ。しらすはあってもなくてもいいとは言われたが、スーパーで探してみよう。
優哉もなんでもできるタイプだけれど、この男も意外となんでも自分でできてしまうタイプのようだ。ついでに卵酒の作り方まで教えてもらった。調理酒でいいのか? なんて聞いて呆れさせてしまったけどな。
そして授業をこなしているうちに昼になり、昼ご飯を食べ終わった頃にメッセージを受信した。
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