贈り物

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「すみません、起こしちゃいました?」 「え? ゆ、優哉、いつ帰ったんだ」 「少し前ですよ」  目を開けるとすぐ傍に優哉の顔があり、驚いて肩を跳ね上げてしまう。ちょうど僕は横抱きにして抱え上げられたところだった。目を覚ました僕を見て少しすまなそうにした優哉だったが、問いかけに優しく笑みを返してくれる。 「今日は思ったほど遅くなかったんだな」  壁掛けの時計を見たら二十三時半を少し回ったところだった。いつもよりほんの少し遅いくらいだ。日付が変わる前に帰って来られてよかった。明日は忙しいだろうから、早めに休ませてあげなければ。 「ええ、その代わり明日は早起きですが」 「そっか、お疲れ様」  腕を伸ばして優哉の首元に抱きつくと、頬やこめかみに口づけられた。くすぐったさに肩をすくめたら、彼は僕の髪にそっと頬を寄せる。その仕草はなんだか甘えられている気がして嬉しくなってしまう。 「おかえり」 「ただいま」  まっすぐと見つめ合えば、自然と唇が触れ合った。優しく何度もついばまれて、思わずぎゅっと強くしがみついてしまう。その先を請うように唇を舐められると、頬が一気に熱くなっていく。けれどそれを拒むなんてできるはずもなく、気づけば唇を開いて彼を迎え入れていた。 「……んっ、ぁ、優哉、甘い」  口内を撫でられて舌先を絡め取られると、その気持ちよさに肌がぞくりとする。誘われるみたいに鼻先からすがるような甘えた声が漏れていくのを止められない。 「佐樹さん、可愛い」  僕の身体をそっとソファに下ろした優哉は目を細めて至極嬉しそうに笑う。そして指先で髪を梳きながら、首筋や喉元をくすぐるように撫でた。  その感触に小さく肩を震わせると、やんわりとまた唇をふさがれる。再び唇に触れた熱を感じて、その先を求めるように僕は腕を伸ばしてしまった。  さらさらとした黒髪に指を通しその先に絡める。引き寄せるように指先に力を込めれば、さらに深く口内をまさぐられた。 「ふ、ぅんっ……ゆう、や、やっぱ、り、甘い」  舌先を撫でられるとほのかな甘さを感じる。先ほども感じた柔らかなその甘さに、思わずうっとりとしかけたが、よくよく思い返せばその甘みにはとても覚えがあった。 「ちょ、っと、待った」  慌てて腕を解いた僕は身体を引くと、驚いた表情を浮かべる優哉の両頬を掴んだ。 「もしかして、食べた?」 「あ、キッチンにあったの一枚食べました。駄目でした?」 「そうだ、出しっ放しだった」  最後のクッキーが焼き上がるのを待っていたので、先に焼いたものはキッチンに置いたままだった。ほんの十五分を待てずに寝てしまった自分が恨めしい。両手で顔を覆ってため息をついたら、優哉が心配そうな眼差しを向けてくる。  渡す前に食べられてしまうのは予定外だったが、彼が悪いわけではない。油断してうたた寝などしてしまう自分が悪いのだ。 「すみません」 「優哉は悪くないから、謝るな」 「大事なものだった?」 「まあ、大事だけど。お前に渡すつもりだったし、ちょっと早くなったと思えば、うん」  もうこの際いつだっていいではないか。日付もあと十数分で変わる。バレてしまったものは仕方がないのだ。気持ちを入れ替えると僕は身体を起こして立ち上がる。 「ちょっと待ってろ」  優哉をソファに座らせて口先に口づけると、僕は急いでキッチンへ向かった。
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