リナリア

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***  彼はきょとんとした。窓から射し込んだ朝日を浴びた彼は、まるで天使のようだった。 「この国を出て、どこか遠くへ行こう。そこで私と一緒に生きていこう」 「……え?」 「この国は、私と君とのこうした関係を認めてくれないばかりか、厳しく処罰される。そんな決まりのない国へ行こう」  あまりにも突拍子のない、夢物語のようなことを話しているという自覚はあった。  だが私は本気だった。私はこの身も心も、そして私の人生すべても、彼に捧げるつもりだった。  きょとんとしたまま、彼は小さく首を傾げた。 「……この国を、出るの?」 「そうだよ」 「俺も、一緒に……?」 「君と一緒に生きていきたいから」  彼は目線を下げて、ぼんやりとリナリアを見つめていたが、やがて小さく、悲しげにため息をついた。 「俺は、あなたに救ってもらうような人間じゃないよ」 「そんなこと」 「親にも誰にも、おまえはいらないって言われたんだ。俺は誰にも愛される価値のない人間なんだ」 「誰でも愛される価値はある」  間髪入れずそう断言すると、少年の目がリナリアから私へと向けられた。 「君が、どうしようもなく愛しいんだ」  どうしたら伝わるんだろう。私は不甲斐なくも泣きたくなってしまった。  言葉が見つからなくて、ただただ彼を抱き締める。祈りの言葉ならたくさん知っているのに、たった一人の、大切な人へ伝えたい言葉が出てこない。  私は、  私はあなたを、  愛しています── ***
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