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驚愕のあまり声も出なかった。だから、君が、自分の唇に指を当てて「シーッ」とする仕草を見て、心の底からほっとしたのだ。彼の左手には、すっかりみすぼらしくなったリナリア。
「憲兵に、知らせたみたい。店主」
声をひそめる彼を、まず思いきり抱き締めた。
「俺と一緒にいるところを見つかったら、あなたも罪人になっちゃうよ」
「君を罪人になんかさせないよ」
彼を正面から見つめると、私はにっこりと笑ってみせた。
少し戸惑ったようだが、彼も笑顔を返してくれた。
神よ。
あなたがこの地に遣わす雨は、人々の心を浄化し、罪を洗い流してくださる尊きもの。それを今、お与えになるという事は、神はきっと私の背を押してくださっているのだ。
私は彼の手を取って立ち上がった。
そして、ぬかるむ馬車通りへと、共に一歩踏み出した。
[了]
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