0人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫ですか?」
意を決して話しかけてみる。
目の前で蹲っている彼女は、体を一瞬震わせたあと、こちらに顔を向けてきた。
化粧でもおそらく作り出せない、整った美顔。
茶髪のロングヘアは、染めているには程遠いほどに綺麗で、毛先まで艶々としている。
服装は、コスプレに近い学生服のようなものを、身にまとっていた。
そんな彼女は、目に涙を溜めて鼻をすすりながら、情けない顔をしていた。
* *
話しかけられた。
蹲っていたせいで、周りの状況が把握できておらず、そのなかで突然声を掛けられ思わずビックリしてしまう。
確認のために声のした方へ顔を向けると、見たことのない濃い色で、ボタンの付いた服を身につけ、片手には私の知っているものとは少し違う、黒いものを持った歳の近そうな男が、心配そうな顔をしてこちらを見ている。
『だいじょうぶですか?』
男の言葉が理解出来るということは、私の世界と言語は同じなのだろう。
だが、周りの建物にある、看板らしきものに書かれた文字は見たことがないもので、ここが自分の知らない世界であることは確かだった。
「そんなところで蹲ってどうかしたんですか?」
知らない世界で優しくされたのが嬉しくて、涙が溢れてしまう。
私がまた泣き始めたのを見て、男はどうしたらいいのかと言った感じであたふたし始める。
その姿に思わず笑いがこみ上げてきて、我慢できずに吹き出してしまう。
「ぷふっ」
* *
彼女は体を小刻みに揺らして、俺が慌てふためく姿に笑いだした。
その姿を見てほっとする。
あまり人の扱いには慣れておらず、落ち込んでいる人にどう言葉を投げ掛けてあげればいいのかわからなかった。
それなのに困っている人を放っておけず、話しかけてしまうのが俺の悪い癖だ。
少し元気を取り戻してくれた彼女に、蹲っている訳を聞くべく再度話しかける。
「どうしてここにいるのか、よかったら聞かせてもらえませんか?」
これが私と彼との出会い。
これが俺と彼女との出会い。
最初のコメントを投稿しよう!