146人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
鼻をかすめる部長が愛用している香水の香り。
ドキッと胸が大きく高鳴り、思わず部長の身体へ手を回そうとした。
その瞬間、ちらっと頭の中をよぎるダメ彼の姿。
……まだこの手は回せない。
私は両手をグッと握りしめた。
「私、部長のこと好きです。大好きです。……でも、まだ彼と正式に別れてない……。」
「…ん…。」
抱きしめたまま相槌をうってくれる。
「正式に別れたら、その時は私から部長を思いっきり抱きしめてもいいですか?」
せめてもの自分自身へのけじめ。
彼への気持ちなんて、もうきれいさっぱりない。
けれど、彼と別れてない中途半端な状態で、部長と向き合うのは、部長に対して失礼だと思ってしまう。
「……もちろん。いつでもいいよ。……でも今は、もうしばらくこうしていたい。……いいよな?」
私を抱く腕に更に力がこもる。
太陽が完全に沈んでしまうまで、私は部長に強く強く抱きしめられていた。
END
最初のコメントを投稿しよう!