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「部長、浮気ってどう思います?」
私はビールの入ったジョッキを口へ運びながら、向かいに座っている部長に質問してみた。
金曜の空が明るいうちからビールを飲んでる私ってどうなんだろうと頭の片隅では思ってる。
今日と明日と明後日と。
私と部長は出張のため、部長の運転する車で宿泊するビジネスホテルへ向かったのが朝の出来事。
昼食は高速のパーキングですませ、目的のホテルに到着したのが十五時過ぎ。
チェックインを済ませ、取り引き先へ出向こうとしたら、向こうさんの会社でトラブルが起きたらしく、今日の私達と会う約束はキャンセルしたいと連絡があったのが十五時半のこと。
本日の予定がポッカリと空いてしまい、ホテルの部屋でダラダラ過ごそうと思っていたら、部長に「ハッピーアワーだ。近くにいい店あるんだ。飲みに行こう!」と、半ば強引に連れ出されてしまった。
……ハッピーアワーだかなんだか知らないが、お酒を飲むのは正直嫌いじゃない。
私が新人の頃は、私より五つ年上の部長はまだ役職についてなくって、私の教育係だった。
あの頃は部長とペアで仕事をしていたせいか、部長の手を離れた今も、何かと部長とワンセットで仕事をしていることが多い。
今回の出張だってそうだ。
……まぁ、強引なところはあるけど、仕事はしっかりするし、部下のことをよく見てて何かとフォローなりアドバイスなりできる人。
上司として頼りがいもあって、私はとても尊敬している。
……部長にはそんなこと言えないけれど。
……たぶん、私が悩んでいることに気がついたんだろうな。
だからこんな明るいうちから私を飲みに連れ出したんだと思う。
私と同様にビールを飲みつつ、ジョッキを手にしたまま部長は口を開いた。
「浮気かぁ。いい印象はないわな。浮気するやつは最低だと思うぞ?……何?お前浮気されてるのか?」
「ストレートに聞かないでくださいよ……。」
部長から目を反らしながら答えた私の反応に、『浮気されている』と部長は判断した様子。
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