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「大事にされないのわかってて、それでも付き合っていきたいのか?」
部長の言葉に、心臓を掴まれたかのような衝撃。
「…嫌……。私だって……大事にされたい……。愛されたい……。」
お酒が程よく効いているのか、普段では絶対言わないような本音がこぼれ落ちる。
「大丈夫。お前にはその資格が十分ある。……ただ、これは幸せになる前の試練だ。」
「……試練?」
私はそう聞きながら、じっと部長を見つめ、部長の言葉の続きを待った。
「浮気男とはしっかり別れる。そうしたら、お前は幸せになれる。」
力強さをたたえた瞳に、また胸の奥がドキンと高鳴った。
「別れられなかったら、また辛い思いをするのはお前だ。……別れられそうか?」
……今なら…、部長が側にいる今なら、別れ話を彼に切り出せれそう。
「……部長、何も言わず私を見ててくれますか?」
私の言葉に、優しい微笑を浮かべながら部長は頷いてくれる。
部長に背中を後押ししてもらった気がしてくる。
私はバックからスマホを取り出し、彼の電話番号を表示させ、電話の発信ボタンをタップした。
無機質に耳に届く呼び出し音。
三コール……五コール……十コール……
呼び出し音が二十回を数える頃に、私は耳からスマホを離した。
ため息をつきつつ、通話終了させる。
「……部長の前でなら、しっかり別れられそうだったのにな…。残念ながら出ませんでした。」
浮気相手といい事してるなんて考えたくないが、その可能性も十分ある。
「それは残念。……じゃあ次は、俺がこれからすることを、何も言わず見ててくれるか?」
「…?…は…はい。わかりました。」
何をするんだろう…?
私は戸惑っているけれど、部長の考えは読めないし、静観するしかないよね。
すると、部長が手のひらを広げて、その手をあたしの前に持ってきた。
「…彼にメールでも何でもいいから、メッセージ送れる入力画面にしてスマホ貸して。」
えっ?っと思ったが、部長は嫌がらせや脅しをするような人ではない。
そんな部長が何をするのか気にもなり、私は素直に無料通信アプリの彼のトーク画面を開き部長に渡した。
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