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表情は変えず、素早くメッセージを打ち込んでゆく部長。
そんなに時間はかからず「こんなもんか。」とスマホを再び操作してゆく。
「はい、終わった。彼から反応あったら、深夜でも早朝でも教えて。」
そう言葉を添えて、部長は私にスマホを返してくれた。
「……あの、送った内容…見てもいいですか?」
「どうぞ。…俺、ちょっとトイレ行ってくるな。」
スッと席を立ち、部長はテーブルから離れていった。
私はスマホを操作し、部長が彼に送ったであろうメッセージを表示させる。
『はじめまして。俺はあいつの上司だ。
単刀直入に言う。俺はあいつが好きだ。狙ってる。
あんたが別れようが別れまいが、あいつは俺がもらうことにした。
あんたと付き合っていたから、今まではあいつのために辛抱していたが…
あいつからあんたの話を聞いて、もう我慢はやめた。
正々堂々奪わせてもらう。』
えっ?あっ?へっ?
部長が……私のこと……好き!?
どきどきと胸が早鐘のように打ちまわっている。
顔も熱い……
信じられない思いで何度もメッセージを読み返すが、書いてある内容が変更されるわけでもなく、うれしさと戸惑いと驚きの嵐に翻弄され……
そんな時に、頭をわしゃっと撫でられた。
そんなことをするのはもちろん部長。
楽しそうに「読んだ?」と聞くので、こくりと頷くと、ガシっと手を掴まれた。
「じゃあ行こう!」
ぐいっと手を引っ張られ、強制的に立ち上がらされると、そのまま出口へ向かってゆく。
「おっ、お会計は…?」
「さっき済ませた。」
私のカバンもいつの間にか部長が持っていて、その細やかな気配りに、こんな状況なのに感心してしまう。
無言で手を引かれることしばらく。
この道、飲みに行く前に部長と一緒に歩いたな。
ホテルから続く一本道。
農業用のため池と思われる池には、水草が浮いており、池の向こう側には鉄橋と思しきシルエットが浮かび上がって幻想的。
飲み始めた頃はまだ明るかったのに、もう空は黄昏て神秘的。
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