146人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
連なっているあの山も、太陽が沈んでしまえば空と山の境目が曖昧になり、星の瞬きと人工物の光の瞬きとで、また違った表情を見せるに違いない。
私が足を止めたためか、私の手を掴んだまま部長も足を止める。
「……どこにでもあるはずの風景ですけど、すごくきれいですね。」
「…ああ。きれいだな。」
部長はそっと私の手を離し、あたしと共に目の前に広がる景色をしばし眺めた。
太陽が稜線にさしかかった頃、「なあ……」と部長が口を開く。
「はい?」
私は神秘的で幻想的な景色から目線を部長へと向ける。
そこには、ややバツが悪そうな顔をしている部長。
「その…、あの場の勢いでやってしまったが……迷惑だったか?……メッセージも……俺の気持ちも……」
ここまで手を引かれている間、ずっと考えていた。
「…読んですぐは驚きました。……だって部長、そんな様子、今までなかったんですもん。」
「お前に嫌われたくなかったからな。そりゃ隠すさ。」
「読んですぐは驚いたけど……嬉しかった。」
私は部長に微笑みかけた。
うまく笑えてるかはわからないけど。
「何で嬉しいのかなって考えてたら、気がついたんです。………私も好きだからなんだって。」
私の言葉に、大きく目を見開く部長。
……部長は私が新人の頃から面倒みてくれた。
失敗したら怒ったり、慰めたりして支えてくれた。
上手くいった時は頭をぐしゃっと撫でてほめてくれた。
あまりにも近くに部長がいたから、この気持ちに気がつけなかった。
ダメな彼がいたから、なおさら自分の気持ちに気がつかなかった。
彼と別れる決心がついて、今までのことを思い返していたら、いつも部長が私の側で、私を支えてくれたことに気がついて……
そのことに気がついたら、もう好きが心からあふれていて……
こんな気持ち、ダメな彼に抱いたことなんてない。
「本当に俺と同じ気持ち……なのか?」
私はこくりと頷く。
すると、今まで抑えていたものをぶつけるかのように、ぎゅっと強く強く抱きしめられた。
最初のコメントを投稿しよう!