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寮長室に飛びこんで荒々しくドアを閉める。モモンガが入ってこられないように鍵をかけると、俺はその場に崩れ落ちた。
……こ、怖かった。もうちょっとで人食いモモンガに頭からまるごといかれてしまうところだった。相手がいかつい男じゃなくって、女の子と見間違えてしまうくらい可愛い見た目をしていたのが、俺の恐怖心をいっそう煽った。
前の学校の友人たちに全寮制男子校に転校することを伝えると、
「男に襲われないように気をつけろよ」
笑いながら警告された。俺はそのとき、
「半年後には彼女じゃなくって彼氏がいるかもな」
笑ってそう答えた。
もちろんただの冗談だ。だって、いくら男ばっかりの環境だからといって、男が男に走るだなんて思わないではないか。
監獄ならいざしらず、ここは一応は東京だ。バスと電車に二時間ほど揺られれば、渋谷や原宿の街にだってたどりつけるのだ。
「えらく慌ててたけど、なんかあったのか?」
森正の声にハッとして顔を上げる。焦るあまりまったく視界に入っていなかったが、俺が部屋を出ている間にもどってきたらしい。
森正は勉強机の椅子に座り、ポッキーを食べながら不思議そうな顔で俺をながめていた。
「森正……」
男の中でも特に男っぽい顔が視界に映り、俺はほーっと息をついた。さっきのモモンガとの落差が凄まじいが、どちらかと言わずともこっちが普通だ。いや、森正は森正であまり普通とも言いがたいのだが、モモンガに比べればよっぽど普通だ。
「いや、ジュースを買いにいったらおかしなのに――って、なんだってもうそんなに散らかってるんだよ!」
俺は愕然とした。
かたづけたばかりの机やベッドの上に、紙くずだの雑誌だの靴下だのが散らばっている。
「せっかく人がきれいにしたのに、一瞬で元にもどすな!」
床から立ち上がって森正に詰め寄る。
「ああ、おまえがやったのか。どっかから小人さんが湧いて出て、部屋を掃除したのかと思った」
「おまえはアホか! そんな都合のいい小人がいるわけないだろ!」
「それがいるんだよ。どこからともなく現れて部屋を掃除してくれる便利な小人さんが」
森正は荒唐無稽なことを真顔で言う。小人なんて童話の中にしか存在しないとわかっていても、真面目な顔で言われてしまうとついうっかり信じてしまいそうになる。
「そんなにイライラすんなよ。これでも食って落ちつけって」
森正は手にしていたポッキーの箱を差し出してきた。
「あ、サンキュ」
ポッキーに手を伸ばしかけてはたと気づく。あとで食べようと思って、机の上に出しておいたポッキーの箱がなくなっている。
「おい、ちょっと待て。これって俺の机においてあった奴じゃないのか」
「ああ、そこに落ちてたからもらっといた」
「そういうのは落ちてたじゃなくっておいてあったって言うんだよ! なに人のもの勝手に食ってんだ! 返せ!」
森正の手からポッキーの箱を取り返したが、中身はもう三本だけだった。腹立ち紛れに三本まとめてバリバリと噛み砕く。
ああ、もうムシャクシャする。このままだとムシャクシャするあまり、叫びながら寮の中を暴走してしまいそうだ。
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