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転校することを告げると、俺の彼女や友人たちは大いに驚き、大いに哀しんだ。
もっとも彼女の場合は話がこじれて、途中で大喧嘩になってしまったのだが。
彼女の莉子は、パーフェクトを誇る彼氏が東京の片隅にある全寮制の高校に転入することを知ると、「私を愛してるなら攫って逃げて」などと無茶苦茶なことを言ってきた。
駆け落ちなんてドラマじゃあるまいしできるはずがない。実行したところですぐに母親に見つかって、一切の金品を没収された挙げ句に路上へ放り出されるのがオチである。
冗談だろうと笑って流すと、莉子はひどく拗ねてしまった。俺の態度がよっぽど腹立たしかったらしく、俺がいくら謝ってもつんと顎を背けたまま、決して許そうとしなかった。
そうなると俺としても面白くない。女子には親切にするのが俺のモットーだが、親切にはしてもへつらったことは一度だってないのだ。
「馬鹿な我が侭もいいかげんにしろよ。そんなことできるはずないだろ」
俺のぞんざいなひと言で、喧嘩はさらにこじれてしまった。
「シロちゃんの愛がそんなものだってわかってたよ。でも、実感させられるのってすごく哀しいよ」
あの日、別れ際に莉子がぽとりと落とした言葉が、妙に耳に残っている。
あれから仲直りどころかまともな会話もないままだ。こっちから話しかけようかと何度も思ったのだが、ご機嫌取りも馬鹿馬鹿しい気がして、仲直りしないまま今日に至ってしまった。
俺は鉄の門の前に立ち、古ぼけた建物を暗鬱とした思いで見つめた。鬱蒼と生い茂った木々の向こうに立っているのは、窓の数からして五階建てのそこそこ大きな建物だ。カタカナのコを左に九十度傾けたかたちをしている。
この中で暮らしているのがひとり残らず男だなんて。世の中の半分は女でできているというのに、なぜそんな異様な空間をわざわざ作ったのか。
この学校の創立者は変態に違いない。
果たして繊細な俺がこの異常空間で正気を保てるだろうか。自信は爪の先ほどもない。
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