2

1/1
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

2

この寒空の中、こんなところに少女を放置しておくわけにはいかない。 そう思って、少女の上体を起こし、自分の部屋まで運んだ。 警察に連絡しようと思ったが、まだ昏睡状態にあるようなので、少し部屋で休ませてから警察に届けるなり、体が悪いようなら救急車を呼ぶなりしようと思った。 「大丈夫?」 肩を貸して部屋に運んでいく途中にも声をかけたが、返事をしなかった。 夜中に、こんな美少女の子供がどうして? 家出か? または迷子か? それか急に体に異変が起こり、倒れ込んだかのいずれかだろう。 まずは部屋のドアを開けて、少女を中に入れた。 ベッドも布団も引越しで運び出してしまったので、何もない部屋で、仕方なく少女を床に寝かせた。 会社で使っているのを持ってきた、英国製ラムズウールの膝掛けや、ここまで着てきたラルフ・ローレンのトレンチコートを、少女の体の上に毛布や掛け布団代わりにかけた。 寒かったので今月中はまだ使えるエアコンをつけて、部屋を暖めた。 もう一度、少女の体を揺すって声を掛けた。 「大丈夫?!」 するとしばらくすると、また少しずつ目を覚まし始めた。 「大丈夫かい?」 少女の大きな美しい瞳がこちらを見た。 「う、ううん…」 「無理しなくていいよ。寝ていたければ、寝てればいいから。もう夜中だし」 「うーん、ここどこ?」 「君が倒れていたアパートの中の僕の部屋だよ。どこか痛いところとかある?だったら救急車を呼ぶから」 「ううん、痛くない」 「良かった。じゃあ親御さんの連絡先を教えて」 「オヤゴ、さん?」 「あ、ゴメン。お父さんやお母さんのこと。君の家の電話番号だよ」 「知らない。お父さん、お母さんいないし」 「ああ、共働きか?大丈夫、共働きでも、こんな時間なら家に居るだろうから。夜中に叩き起こすみたいで悪いけど、君のためだ、仕方ないよ」 「お父さん、お母さんいないよ。おうちも無い」 「え?じゃあひょっとして施設に入ってる孤児か?あ、そう。じゃあ今まで住んでいた施設の連絡先は?先生の連絡先でもいいよ」 「シセツ?何それ?」 「施設も違うのか?じゃあ君、今までどこに住んでたの?」 「お空の上よ」 「え?ああ、そうか、起きたばっかりだから、まだ夢でも見てるのかな。こりゃ警察に保護してもらった方がいいな」 「ねえ」 急に少女の方から話しかけてきた? 「何?」 「ここにいたい。暖かいし。お外寒いから」 「別にいいよ。でも君のおうちを捜してもらわなきゃいけないから、警察に連絡して保護してもらうよ。きっと今、君を必死で探している人がいるからね」 「探している人!探している人、呼んじゃダメ!!そんなのに知らせないで!お願い!」 いきなり少女が上体を起こして、こちらを睨みつけるように、大きな美しい瞳をさらに大きくして叫び出したので吃驚した。 警察嫌い? こんな子供が? いや、 探している人と言えば親だ。 それをこんなに拒絶するということは? 児童虐待? こんなに嫌がっている子供を警察に保護して貰っても、ただ事務的に親元に返してしまうだけだろう。 後で児童虐待を訴えたところで、児童相談所と警察の連携は極めて悪いから、ヘタすると最悪の事態になる。 しかしこのまま、この部屋に匿っていると、こっちが誘拐犯と思われかねない。 誘拐、監禁の罪に問われてしまうかもしれない。 どうする? 「お願い。探している奴には知らせないで!」 「う、うん」 仕方ない。 ここまで嫌がっている子供の哀願を無視するわけにはいかない。 「わかったよ。でも今日はもう遅いから朝までここでグッスリ寝よう。ね?」 「本当に知らせない?」 「うん。約束する」 「わかった。ありがとう。じゃあおやすみなさい」 「おやすみ。ゴメンね、こんな布団もないところで」 「ううん、暖かいから大丈夫」 「そう」 少女はまた目を閉じて、しばらくすると寝息を立てていた。 少女の超絶的に美しい寝顔を見ながら、これからのことを思案した。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!