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翌日はいつも通り出勤した。 部屋に少女を残して。 少女の名はサラというらしい。 漢字でどう書くのかはわからない。 早朝に、アパートの近くのコンビニへ行って、朝昼晩の分のサラの食料を確保し、好きなのを食べてと渡しておいた。 会社に着くと、昨日残業でまとめた資料を会議で配り、簡単なレクチャーをした。 まだ朝一だから、参加者は頭が回っていないような燻んだ顔をしていたが、一番の寝不足は昨晩2時間くらいしか寝られなかったこっちだ。 だが資料のレクチャーをしなくちゃならない立場上、寝惚け眼(まなこ)でいるわけにもいかない。 会議が始まる前に、冷水で顔を何度も洗い、熱いキリマンジャロのブラックコーヒーをガブ飲みしたのが少しは効いたのか、会議でのレクチャーはなんとか無事やり終えた。 しかし、会議の話し合いのもつれた結果からすると、今日もまた残業しなくちゃならないみたいだ。 部屋ではサラが心細そうに一人で待っているから、なんとか今日の残業は早めに切り上げたい。 部下に当たる人員が皆辞めてしまったので、面倒な業務はほとんどこっちに回されるようになって久しいが、会社は中途採用の新人を採用する予定もないらしい。 * 結局、今日も一人残業になり、冷めたコーヒーをすすりながら、ひたすらパソコンを叩くことになった。 だが今日はサラのこともあるし、早めに仕事を片付けようと思った。 明日の会議は今日の延長をやるしかないし、今日の会議のまとめ的な資料があれば大丈夫だ。 だいたいのまとめの概略は、会議中にメモしておいたので、後は簡潔にまとめるだけだった。 今日はなんとか昨日よりは早く残業を終え、21時頃、会社を出た。 途中、馴染みの居酒屋風バーに寄って、簡単に夕飯を食べた。 「あれ?今日は飲まないの?」 店の店主である陽子さんが首を傾げて聞いてきた。 「はい。まだ仕事が残ってて忙しいんで」 「そう。大変ねえ」 「すいません。今日はご飯だけで帰ります。ご馳走様でした」 「お疲れ様」 陽子さんは髪を金髪にした鋭い顔立ちの美人で、歳は自分より一つか二つくらい上か。 随分前からこの店を一人で切り盛りしているようだが、いつのまにか、週に2回ぐらいは通ってるような気がする。 店での夕食を早めに切り上げて、アパートに急いで帰った。 鍵を開けて部屋の中に入ると、サラはパソコンのTVを点けっぱなしにして、少しうたた寝していた。 「もう寝る準備をしようか?その前にお風呂に入らなきゃね。シャワーでいいかな?」 「何でもいいよ」 サラはあくびをしながらそう言った。 「今日はTV見てたの?ずっと」 「うん。やることないから」 「そうか。ねえ、まだおうちには帰りたくないの?」 「おうちなんて無いから。ねえ、ここに居ちゃダメ?」 「ダメじゃないけど、お父さんやお母さんが心配してるよ」 「もう帰れないから…」 「どうして?」 「どうしても」 「…わかった。ここに居ていいから」 「本当?ありがとう!」 そう言うと、サラは美しい笑顔を浮かべて抱きついてきた。 食事はどうやら全部食べたらしい。 サラの超がつくほど美しい笑顔を見ながら、いつまでもこのままでいる訳にはいかないな、と思った。 親は心配してるだろうし、捜索願だって出してるだろう。 しかし小さな子供の家出の原因が児童虐待だった場合、そう簡単に親に引き渡すわけにはいかない。 風呂場に行き、シャワーの水をお湯に変えてから、サラを呼んだ。 「ここで服を脱いで、風呂場に入ってからシャワーを浴びてね。もうお湯が出てるから」 「うん」 そう言うと、いきなり目の前でサラが服を脱ぎ始めたので吃驚した。 「ちょ、ちょっと待って!今出てくから!」 慌てて脱衣所から出て、扉を閉めようとした。 その時、不意にサラの裸の肩越し辺りが一瞬目に入った。 赤くなった、痛々しい大きな傷のようなものが、両肩にあるのが見えた。 やはり…
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