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この寒空の中、こんなところに少女を放置しておくわけにはいかない。
そう思って、少女の上体を起こし、自分の部屋まで運んだ。
警察に連絡しようと思ったが、まだ昏睡状態にあるようなので、少し部屋で休ませてから警察に届けるなり、体が悪いようなら救急車を呼ぶなりしようと思った。
「大丈夫?」
肩を貸して部屋に運んでいく途中にも声をかけたが、返事をしなかった。
夜中に、こんな美少女の子供がどうして?
家出か?
または迷子か?
それか急に体に異変が起こり、倒れ込んだかのいずれかだろう。
まずは部屋のドアを開けて、少女を中に入れた。
ベッドも布団も引越しで運び出してしまったので、何もない部屋で、仕方なく少女を床に寝かせた。
会社で使っているのを持ってきた、英国製ラムズウールの膝掛けや、ここまで着てきたラルフ・ローレンのトレンチコートを、少女の体の上に毛布や掛け布団代わりにかけた。
寒かったので今月中はまだ使えるエアコンをつけて、部屋を暖めた。
もう一度、少女の体を揺すって声を掛けた。
「大丈夫?!」
するとしばらくすると、また少しずつ目を覚まし始めた。
「大丈夫かい?」
少女の大きな美しい瞳がこちらを見た。
「う、ううん…」
「無理しなくていいよ。寝ていたければ、寝てればいいから。もう夜中だし」
「うーん、ここどこ?」
「君が倒れていたアパートの中の僕の部屋だよ。どこか痛いところとかある?だったら救急車を呼ぶから」
「ううん、痛くない」
「良かった。じゃあ親御さんの連絡先を教えて」
「オヤゴ、さん?」
「あ、ゴメン。お父さんやお母さんのこと。君の家の電話番号だよ」
「知らない。お父さん、お母さんいないし」
「ああ、共働きか?大丈夫、共働きでも、こんな時間なら家に居るだろうから。夜中に叩き起こすみたいで悪いけど、君のためだ、仕方ないよ」
「お父さん、お母さんいないよ。おうちも無い」
「え?じゃあひょっとして施設に入ってる孤児か?あ、そう。じゃあ今まで住んでいた施設の連絡先は?先生の連絡先でもいいよ」
「シセツ?何それ?」
「施設も違うのか?じゃあ君、今までどこに住んでたの?」
「お空の上よ」
「え?ああ、そうか、起きたばっかりだから、まだ夢でも見てるのかな。こりゃ警察に保護してもらった方がいいな」
「ねえ」
急に少女の方から話しかけてきた?
「何?」
「ここにいたい。暖かいし。お外寒いから」
「別にいいよ。でも君のおうちを捜してもらわなきゃいけないから、警察に連絡して保護してもらうよ。きっと今、君を必死で探している人がいるからね」
「探している人!探している人、呼んじゃダメ!!そんなのに知らせないで!お願い!」
いきなり少女が上体を起こして、こちらを睨みつけるように、大きな美しい瞳をさらに大きくして叫び出したので吃驚した。
警察嫌い?
こんな子供が?
いや、
探している人と言えば親だ。
それをこんなに拒絶するということは?
児童虐待?
こんなに嫌がっている子供を警察に保護して貰っても、ただ事務的に親元に返してしまうだけだろう。
後で児童虐待を訴えたところで、児童相談所と警察の連携は極めて悪いから、ヘタすると最悪の事態になる。
しかしこのまま、この部屋に匿っていると、こっちが誘拐犯と思われかねない。
誘拐、監禁の罪に問われてしまうかもしれない。
どうする?
「お願い。探している奴には知らせないで!」
「う、うん」
仕方ない。
ここまで嫌がっている子供の哀願を無視するわけにはいかない。
「わかったよ。でも今日はもう遅いから朝までここでグッスリ寝よう。ね?」
「本当に知らせない?」
「うん。約束する」
「わかった。ありがとう。じゃあおやすみなさい」
「おやすみ。ゴメンね、こんな布団もないところで」
「ううん、暖かいから大丈夫」
「そう」
少女はまた目を閉じて、しばらくすると寝息を立てていた。
少女の超絶的に美しい寝顔を見ながら、これからのことを思案した。
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