ヨーヨーの糸

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ヨーヨーの糸

中学2年だった俺は、当時日本中で流行っていたコカ・コーラの模様が入った「スーパー・ヨーヨー」に凝っていた。 これは俺だけではない、クラスでヨーヨーができなければ「人にあらず」というレベルで全員が参加していた。 それくらい、このヨーヨーは同世代なら「ああ、あれか!」と理解するくらい日本全国で流行していたのだ。 まあ、単なるおもちゃのヨーヨーではあるが高性能でなんと「空回り」ができていろんな高等技があった。 俺たちは「ブランコ」や「犬の散歩」と言って高度な技を毎日馬鹿のように励んでいたときのことである。 ヨーヨーを重力落下で下に「するする」と落としたら、そのまま糸が「ぶつっ」と切れた。 「あー、この糸は結構使ったから切れたんだな。新しいのにしよう」と思った俺はあらかじめスペアで買っておいた新しい糸と交換した。 そしてもう一度下にゆっくりと下に落とした。 力は加えていない。 すると、たった今新品の糸に変えたばっかりなのに、もう一度「ぶつっ」と音がして切れてしまった。 自由になったヨーヨーは、そのままコロコロと部屋の隅に転がっていってしまった。 「え?また、切れた?」 今まで何回も糸の交換をやってきてたのに、こんな事は初めての事だった。 この時はさすがに「おかしいな?」と思っていた。 このことは夕方5時位の出来事であった。 実はその日は、前日から俺の5歳のいとこが「心臓弁膜症」と言う重い病気を患っていて松山の愛媛大学附属病院で手術をしていた日であった。 執刀医は24時間奮戦したらしいのであるが、やはり5歳の子供には長時間の手術が耐えられなかったのであろう、手術は失敗したらしい。 俺のいとこは残念ながら5歳で死んでしまった。 まあ当時の医学レベルだから仕方がない。 いとことは四国の田舎に帰った時に一緒に遊んだ思い出がたくさんある。 というか世話をした思い出であるが。 後から聞くと、そのちょうど死んだ時間が夕方の5時ぐらいだったらしい。 いわゆる「虫の知らせ」である。 いとこは俺に、最後のあいさつをしに来たのかもしれない。 まぁ、たまたま「ヨーヨーの糸が切れた時間にいとこが死んだ」だけで、偶然と言えば偶然なんであろうが、やはり「世の中にはそういうことがあるんだろうな」と思った初めての出来事であった。 落ちなし
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