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収穫祭にて
クレハの中心地から少し離れているこの離宮だが、それでもここまで人々の活気が聞こえてくるほど、その日は国全体が賑やかな空気に包まれていた。
年に一度開催される国を挙げてのお祭りである『収穫祭』では、様々な催し物が三日三晩続けられる。そして今日はその初日なのだと、ラタが楽しそうに朝から話していた。
「だいぶ賑やかになって来ましたねー!」
離宮でもその話題が尽きないのか、ラタ以外に給仕たちもどこかソワソワした様子で過ごしているようだった。
「収穫祭、か……」
「はい! 本格的な催し物はお昼から始まって、夜には花火が上がるんですよ!」
それを表現するように、小さな手をいっぱいに伸ばしたラタ。そんな輝くような目を見て、本来であれば祭りに参加することができたはずの子供に、スィルが小さく笑う。
「お前は行ってもいいんだぞ」
「え! いえ! 私だけなんていいですよ!」
慌てて手を振ったラタが、眉を下げていたスィルへと笑ってみせた。
「それに、スィル様と一緒じゃなきゃ意味ないですし」
「……そうか」
その言葉に甘えるしかないスィルは、小さく微笑み返すだけだった。
先日の闘技場での勝手が許されることはなく、スィルはあの日から数日この離宮からの外出を一切禁止されていた。元々外出は許可されていないが、それが収穫祭への参加禁止なのだと理解した時、スィルは残念に思うよりもまず楽しみにしていたであろうラタへの申し訳なさが浮かんだ。
同じように虐げられていた過去を持つスィルにとって、人を見世物にするような行為を見逃せるはずがなく、相手が罪人であれ、助けたという自分の行動にもちろん後悔はない。
ただ、少し手を貸してすぐに戻るはずだった計画が、あの獣を前にした時、湧き上がった高揚感にどうしても抗うことができなかったのだ。
そしてその結果、スィルはこうして肩を落とすこととなった。
「ガルシュ様はジネード様と参加されるんですかね?」
いつものように果実を頬張っていたラタが呟く。
「……この時期に呼び寄せたんだ。それが目的だろうな」
そんなスィルの言葉に同調するように扉が開き、まさに今話題に出ていたガルシュが顔を覗かせた。
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