収穫祭にて

7/11
812人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
「こんばんは」  その声と共に、花の香りを連れて、スィルのすぐ横にひとりの少女が立った。大げさなほど着飾っている周りの者たちとは違い、淡黄色の広がる裾の服に身を包んだ少女は、年相応の自然体の柔らかい雰囲気を持っているようだった。  好奇心に溢れた瞳でスィルを見上げるようにして、少女はほころぶような笑みを浮かべる。 「少し人酔いしてしまって。ご一緒してもいいかしら?」 「あぁ、かまわない。ここにいるといい」  即答したスィルにラタが驚愕の表情を浮かべたが、それを無視してスィルが少女のために体をずらした。 「ありがとう」  小さく腰を下ろすようにお辞儀をした少女が、「貴方のお名前を伺っても?」と首を傾げて見せた。 「スィル=アーダント。ペサの王だ」 「やっぱり! 貴方がペサの王なのね」  ぱちりと手を叩いて、元々大きな瞳をさらに見開いて少女が声を上げる。そしてすぐに照れたように頬を赤らめた。 「あ……ごめんなさい。失礼な真似を。私はレアナ=ライラック。ライラック国の第二皇女よ。貴方のことはジネード様から聞いていたの」 「クレハの王から?」 「えぇ。とても美しく神秘的な方だと」  その言葉の中にあるであろうあの男のからかいを感じ、スィルが僅かに眉をひそめる。 「ふふ、ジネード様を怒らないであげて。貴方のことをとても気に入っているのよ」 「……いい迷惑だ」  ふてくされたように口を尖らせたスィルに、レアナがころころと笑う。その愛らしい姿は、失ってしまった幼い日の思い出をスィルに思い起こさせた。  そんな少女の元へ、人混みをかき分けながら現れたガルシュが、慌てた様子で駆け寄ってきた。  レアナの前に立ち騎士のようにお辞儀をしたその姿に、スィルが僅かに目を見開く。 「あら、ごめんなさい。勝手に離れてしまって」 「ガルシュを知っているのか?」 「えぇ、もちろん。だって私たち婚約しているもの」 「えぇ! ガルシュ様とレアナ様が婚約!」  横から割り込むようにして叫んだラタが、慌てて口を押さえる。 「ふふ、そうよ。だから貴方とは長いお付き合いになるかと思って、ご挨拶がしたかったの」 「そうか……貴方がガルシュの」 「お会いできて良かったわ」  そんな少女の微笑みに、スィルはどこか複雑な表情を浮かべていた。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!