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もう一度振り返って、私を見てほしい。信也が振り返ったら私たちはもう一度、やり直せる。私たちの未来を信也の背中で占う。信也は一度も振り向くことなく、玄関にたどり着き、靴ベラを手にした。
もうダメなのかもしれない。そんな予感がした。行かないで、信也・・胸が今にも張り裂けてしまいそう。
「信也!」
私の呼びかけで信也は一瞬立ち止まったが、決して振り返ろうとはしなかった。靴を履き、靴ベラを元の位置に戻すと、信也の手がドアノブに触れた。
この部屋を出て行ったら最後、素知らぬ他人に変わってしまう。そんなの嫌だ。今でも愛している。誰より信也を愛している。絶対、離れたくない。凍えた気持ちを奮い立たせ、最後の抵抗を放り投げた。
「信也は私と別れられない!」
信也はそのまま外に出ると、重いドアが閉まる音だけが虚しく響いた。
私と信也の関係が終わった合図に聞こえた。私は追いかけることも出来ず、その場にくずれ落ちることしか出来なかった。信也を追う勇気なんて微塵もなかった。
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