上村志穂梨

1/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

上村志穂梨

上村志穂梨は冷たい雨の中を傘もささずにそぞろ歩いていた。雨は弱くなったり、強くなったりを繰り返しながら止み間なく降り続いている。10月に入り幾日か過ぎると急に秋が深まり、寒さに慣れていない体から、容赦なく熱を奪い取っていく。 このまま体の熱がすべて無くなったら、息の根は止まるのかしら? 死んだってかまわない。私なんて死ねばいい。どうせ私は生きる価値のない人間。 40分前にさかのぼる。付き合っている彼から一方的に別れを告げられた。ナゼという言葉だけが頭いっぱいに広がった。私は信也を心から愛している。それの何がいけなかったのだろう。信也の口から出るおぞましい言葉は、私を傷つける為だけに放たれた凶器。矢継ぎ早に繰り出される言葉の刃が私の心臓を貫くように降りそそいだ。血が噴き出すように心が泣き叫んだ。 信也は言いたい事だけを一気にまくしたてると、急に晴れた空のように黙りこみ、私の反論も悲しい顔をして聞くだけだった。 「お前とはもう付き合わない。もう、いくからな」 会話の切れ目を見計らう様に、信也はそう言って玄関へ向かった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!