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 わたしは高校でデザインのクラスを専攻していた。そこにたまたま先日、官公庁からポスター制作の依頼があり、生徒たちに作品の募集がかけられた。  応募された作品はコンペにかけられ、優秀作が一点、佳作が二点選ばれた。私は佳作に選ばれ、それなりの評価を得ていた。だが、その結果は私を大いに落胆させた。優秀作に選ばれた作品が、それだけの評価に値する作品とは思えなかったからだ。 「なんであんな、クラスの中でも下手な方の子の作品が、優秀作なの?」  やっかみ半分にそう漏らしたわたしを、別のクラスメートがやんわりといさめた。 「あんた、絵をうまいか下手かでしか見てないんだよ。私はセンスあると思うな」   痛い所をつかれ、わたしは閉口した。 「でもさ、芸能人をヒントにしたキャラといい、まるきり模写の背景といい、オリジナリティがなさすぎるんじゃない?」 「私にはあんたの絵だって、それほどオリジナリティがあるとは思えないけどな」  クラスメートの一言は、わたしのなけなしのプライドを見事に粉砕した。 「あんたはいつもかっこいい絵を描く人に近づこうとしてるけど、それって綺麗なだけで、全然、惹かれる要素が皆無じゃん。芸能人を子供や老人に見立てた絵の方がずっと人目を引くと思うけどな。あんたも一度こだわりを捨てて、何でも描いてみたら?」  結局私は一言も言い返せぬまま、完膚なきまでに叩きのめされたのだった。 「そんなこと言われても、すぐになんか変われないし……」  嫌な記憶に落ち込んだわたしはそう呟きながら、フロアの中を歩き回った。  ――文章を書く人たちも、同じような事で悩むのかな。  そんな疑問を転がしていると、いつの間にかフロアの端まで来ていた。ここで終わりか。そう思い引き返そうとした時だった。あるブースの前でわたしの足がぴたりと止まった。 『無人館』という名のブースで、売られているのは、平積みの冊子が一種類きりだった。
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