同窓会

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駐車場について、車へ乗り込み、エンジンをかけた。 ふと、窓の外を見ると、ワイパーに雪が積り出している。 「、、、降ってきたか、、。」 タバコを取り出し、口にくわえ、一息つきながら、 彼女の帰りを待つ。 ふぅっ、、、疲れた。 車の中も、程よく暖気されてきて、生温い空気に包まれると、同窓会の疲れが全身から溢れ出た。 俺がいなくても良かったんじゃないのか? 調子に乗った川合と、学生さながらのノリで酒を交わす教え子達の顔を思い出すと、どっと疲れが出る。 そして、、、響と楽しげに話していた松下の顔が頭の中をよぎる。 、、、逆に、俺がいて良かったのか。 俺の知らない所で、知らない男が、、、と考えると、確かにそれも府に落ちないところだ。 川合の言った言葉を思い出す。 まぁ、松下の態度を見ていたら、すぐにわかる。 響に気があるんだろう。 松下も高校時代の面影はない。 あれだけの変貌を遂げているからには、何かしらの理由もあるんだろう。 なんとなく嫌な予感はしている。 これから先、何か波乱が起きるかもしれない。 あいつが、この先どう動くか、、、。 全く気にならないと言えば嘘になる、、、。 が、まぁ、気にしていても仕方ないだろう。 ふぅっと、タバコの煙を吐き出す。 、、、それにしても、少し遅いな。 あのまま、解散したんだろうから、もうすぐ来るはずなんだが、、、彼女の姿は見えない。 、、、まさか、千草達に捕まってんのか? 酒も飲んでたようだ。 千草や川合に押し切られて、二次会に連れていかれてんじゃねぇだろうな、、、。 雪は深々と降り積もる。 2本目のタバコに手をかけ、ライターをつけると、彼女の姿が、路地から見えた。 その姿を見て、少しほっとしている自分がいる。 ゆっくりと、車に近づき、ドアを開け、助手席に乗りこむ彼女。 「、、、ごめんね?、、、待った?」 寒さで頬が赤らんでいる彼女の顔からは、申し訳ない気持ちが溢れ出ている。 「、、いや?。そーでもないけど。遅かったな。」 普段どおりを装って、返事をする。 「、、、あ、ごめん、、ね。あの、、ちいちゃんと、ちょっと外で話し込んでて、、。」 「、、、そうか。」 「、、、、。」 俺が相槌を打つと、急に黙り込む響。 、、、ん? 彼女の顔を横目で見ると、何かを言いたげな表情をしている。 何だ? 何か後ろめたい事でもあるような、、、。 何か困っているような、、、何か隠しているような、、、。 なんとなく違和感を感じる。 俺が気にしすぎなだけか? いや、、、何かおかしいな。 いつもの彼女なら、さっきまでの同窓会の事をすぐにでも切り出して、話始めるはずだが、、、。 口数の少ない彼女に少し違和感を感じながら、何気ない会話で様子を伺う。 「寒かっただろ。降ってきたしな。」 「、、あ、、うん。」 そう返事する彼女は、少し元気がない。 、、、やっぱり、何かおかしい。    何かあったのか? 川合の言葉が再び頭をよぎる。 静まり返った車内が、深妙な空気に包まれる。 まさか、、、な。 そう思いたいところだが、響の様子がおかしいのは明らかだ。 やっぱり何かあったんじゃないのか? 何かを言いたげな、そんな彼女の雰囲気に、俺の勘も敏感に働いてしまう。 松下が何か動いたのか? いや、松下だけじゃない。 同窓会での男子生徒の会話を思い出す。 可愛いだの、狙うだの何だの、男子達が騒いでいたのもひっかかる。 遅くなったのは、本当に、千草に引き留められていたからなのか? 「、、、何かあっただろ。」 単刀直入に彼女に聞く。 「えっ??」 「顔に出てる。」 、、、バレバレなんだよ。 隠そうとしたって、すぐにわかる。 とっさに頬に両手を当てる彼女を見て、確信する。 やっぱり、何かあったんだな、、、。 「おまえはわかりやすいからな、、、。」 少しの雰囲気の違いで、すぐにわかる。 これだけの年月を過ごしてきたんだ。 隠し事はされたくない。 それが本音だ。 「、、、あのね、、」 困惑した表情をしながら、話を切り出す響。 事の内容は、言いづらい事に間違いなさそうだ。 先手を打って、彼女に投げかけた。 「告白でもされたか。」 「えっ!!!なんで!?!?」 、、、やっぱり、そうきたか、、、。 俺の勘は見事に的中したようだ。 俺の言葉に、驚いた表情を見せる響。 、、、本当にわかりやすい。 「、、、やっぱり、、な。」 タバコの吸殻を灰皿に押しつけながら、つい、口を滑らせてしまった。 「やっぱりって!?」 まさか、俺が言い当てるとは思っていなかったようで、響は、目を見開いている。 「、、、いや。」 思い当たるフシは多々あるが、わざわざ口に出すのも性に合わない。 響の口から正直に事の全てを聞きたいところだ。 まぁ、急に告白されて、困ってるのは間違いないだろう。 そして、それを俺に言うべきかどうか、迷っているんだろう。 、、、松下か? 川合の言う通り、落しにきたっていう訳か、、、。 ふぅっと、小さなため息がつい出てしまう。 響は、俺の顔色を伺いつつ、話をし始めた。 「、、あのね、、松下君ってわかる?。帰りにね、急に呼び止められて、、、。」 やっぱり、、、。 、、、松下か。 確かに、あのまま引き下がる訳もねぇか、、、。 同窓会での松下の行動を思い返せば、、、まぁ、不思議ではない。 そこは冷静になりつつ、黙って聞いている。 「あのね、、告白っていうか、、、。はっきり言われた訳じゃないんだけど、、、。よくわからないんだけど、、、。連絡先を教えて欲しいって言われて、、、。」 冷静さを保ちつつ、話を聞いていたつもりだが、頬を赤めて話始める彼女に、少しずつ、苛立ちを感じ始める自分がいる。 ん?よくわからないだと? 連絡先を教えてほしい、だ? 「ふぅん。、、、それで?」 響の事だ。 急に連絡先を聞かれて、戸惑ったんだろうが、、、。 2人のやりとりが、まるでその場にいたかのように手に取るように、わかってしまう。 腕組みをしながら、相槌をする。 冷静に、、、と、話を聞いているが、、、。 「友達になりたいって言われたんだ、、。」 「、、、ふぅん、、。友達、、ね。」 連絡先を聞いてきた時点で、松下の心のうちはわかるだろう。 松下は、友達以上を望んでいるはずだ。 手堅く友達からと連絡先を聞き出そうとしてきたんだろうが、、、。 本音を言えば、実際、面白くない話だ。 徐々に冷静さが欠落していく俺の態度に、響も困惑しているのが伝わる。 だが、俺もそこまで、できた人間じゃない。 松下の気持ちを知っている以上、友達になれと言える心の余裕は、持ち合わせてない。 響がうまく断ればいいだけの話なのかもしれない。 だが、人の気持ちを人一倍思いやる彼女に、そんな技量が無いのは、よくわかっている。 だから、響も困っているんだろう、、、。 そして、俺も、そんな彼女と松下の行末に、少なからず、不安を抱いているのも事実だ。 気づけば、ハンドルに手をかけ、人差し指で、ハンドルを叩いている自分がいる。 心がざわつく。 まさか、連絡先教えたって言うんじゃないだろうな。 「、、、それで?。教えたのか。」 「あ、ううん!!私も急に言われてびっくりしちゃって、、、。」 「、、、ふぅん。」 響の返答に、少しほっとしながらも、松下の顔を思い浮かべると、苛立つ気持ちが隠せない。 そんな俺の態度を察してか、響が申し訳なさげに謝ってくる。 「、、、ごめん。」 「別におまえが謝る事じゃないだろ。教えてないなら、電話くる事もないんだろ。」 違う、謝って欲しい訳じゃない。 だが、俺の中では悶々とした気持ちが、心の中で渦を巻いている。 連絡先を教えていなければ、確かに松下と繋がる事はないんだろうが、、、。 あいつは、それで引くんだろうか? ふと、隣に座る彼女に目をやると、俯きながら、膝の上に置いた鞄を強く握り、何やら考え事をしているような顔をしている。 また何か違う問題を1人で抱え込んでいるような、、、。 、、、おいおい、まだ、何かあんのか? 何かを隠しているような、、、。 そんな雰囲気を醸し出している。 「まだ何かあるみたいだな。」 「、、、え!あっ!ううん!!」 咄嗟に否定する彼女の顔から、すぐに嘘だとわかる。 「嘘つくな。だから顔に出てるって言っただろ。」 、、、全く、、、。 何をそんなに深く悩んでいるんだ? これ以上、何があるって言うんだよ、、、。 ついため息がこぼれる。 「ちゃんと言って。」 彼女の口から真実を聞きたい。 おまえが1人で背負っている物は一体何なんだ? 「、、、うん。、、あのね、松下君から連絡先の紙をもらったの。いつでもいいから連絡してほしいって言われて、、、。」 真実が知りたくて問い詰めたのは俺だが、彼女が戸惑いながら話す内容に、半ば嫌気がさしてきた。 、、、やっぱり、そう言う事か。  そのまま引き下がる訳は無いとは思ったけどな。 思いの外、松下の押しも強いようで、そんなやりとりを聞いていると、頭がくらくらしてくる。 どうしても、響との接点が欲しいようだ。 「、、、連絡ほしい、か。」 「、、、ごめん。付き合ってる人がいるって言おうとしたんだけど、松下君すぐに走って行っちゃって、、、。でも、ちゃんと断るつもりだから!!」 意気込んで、そう話す彼女。 俯きながら、膝の上にある、小さなハンドバッグを握る響の姿を見て、もはや、冷静さは失われつつある。 迷いながらも、自分で解決しようとしている響の心情は、よくわかる。 俺の事を考えて、、、という彼女の気持ちも十分伝わってくる。 だが、俺の中では、どうも納得がいかない。 ああ、そうかと冷静に大人の対応をするべきなのかもしれない、、、が、実際、そんな話を聞いて、大人の立ち振る舞いができるほど、俺は出来た男じゃない。 彼女の、短いスカートから出た太腿が目に入った瞬間、彼女の前で振る舞うべき大人の自分は、一気に崩れ落ちた。 苛立ちと、焦燥感、そして、嫌悪感、、、。 松下に対してなのか、女らしさを見せる響に対してなのか、、、。 「、、直球投げてきた訳だ。」 「えっ??」 俺の言葉に、驚いた表情で彼女は顔を上げる。 俺の言葉の意味がわからないようだが、もはやそんな事はどうでもいい。 俺以外の男に、女を見せるなよ、、、。 自分の中の欲深い嫉妬心が顔を出す。 一心不乱に、勢いのまま、彼女の唇を奪う。 他の男から、どう思われているのか、もっと考えろ。 おまえを女として見ている奴が、周りにどれだけいる事か、、、。 誰にも渡したくない。 離したくない、、、。 俺は、大人でも何でもない。 嫉妬心が強いただの男だ。 「、、、!!!」 彼女が、硬直しているのが全身から伝わるが、俺は止められない。 俺の嫉妬心に火をつけたのは、響だ。 物事の全体が見えるからこそ、、、松下が脅威に感じる。 この先、何かが起こるかもしれない、、、そんな漠然とした恐怖心が、俺の引き金を引いた。 強引に奪った響の唇を、そっと解散する。 「、、、っ、、。」 響は呼吸が乱れて、意識が混沌としているようだ。 そんな彼女の耳元で囁く。 「スキみせんなよ。」 、、、ったく、スキありすぎなんだよ、、、。 頬を赤らめた彼女の肩を抱き寄せた。 胸元に寄せると、響の温もりを感じて、少しほっとする。 こうして肌を感じられるのは、俺だけであってほしい。 「、、、ごめん。私、スキあるのかな、、、。」 胸元で響が呟く。 自覚が無いところが、本当に厄介だが、響らしい。 もっと、自覚してほしいが、、、。 「、、、まぁ、あんだけ楽しげにしてたら、勘違いする奴もいるんじゃねぇの?。」 嫌味になるかもしれないが、言わずにはいられない。 同窓会での寄り添って話す姿を思い出すと、そんな言葉も吐き出したくなる。 「断るって、おまえ、まさか連絡するつもりじゃねぇだろうな。」 さっきの話じゃ、断りの電話をする気でいるようだが、これ以上松下と関わりを持たせたくないのが本音だ。 響に釘を刺すが、、、。 「、、、え、、、うん。そのままにしておくのも、なんか気まずいし、、、。ちゃんと断ったほうがいいいよね、、、。」 真面目な響らしい返答に、大きくため息をついてしまう。 「おまえが連絡したら、向こうの思うツボだろ。そんなんほっとけ、ほっとけ。」 余計な事はしないでほしい。 そう思いながら、彼女の頭を優しく撫でる。 「、、、いいのかな?松下君、北大の図書館によく来るって言ってたから、これからも会うかもしれないし、、、。会ったら気まずいよ。」 響の言いたい事は、確かにわかる。 確かに、これから会うかもしれない相手だ。 だからこそ、自分の納得のいく様にしたいんだろうが、、、。 そんな事してみろ。 きっと、松下のペースに巻き込まれる。 そんな予感がしてならない。 「そんなもん、ほっとけばそのうち気が変わるだろ。」 俺の我儘に過ぎないんだろうが、、、。 どうしても松下に連絡させたくない。 「、、、うん。わかった。」 少し考えて、響がそう返事をする。 確かに、単なる俺の我儘だ。 彼女を誰にも渡したくない。 松下は、なんだか嫌な気がしてならないんだ。 無理やり、納得させたような気もして、響の心の内を確かめるように、顔を覗き込んだ。 「本当にわかってんのか?」 大丈夫なのか? 「わかってるよ!大丈夫だよ!!」 意気込んでそう返答する響に、安堵する俺がいる。 本当に心配でしょうがねぇな、、、。 これからも、こういう事がある度に、こいつに振り回されるんだろうな、、、。 まぁ、それも悪くねぇか。 そう思うと、ふっと笑えてくる。 告白されたってだけで、こんなに嫉妬深くなるなんてな、、、。 俺もまだまだだな、、、。 感情をコントロールできない自分に呆れつつ、、、 目の前にいる彼女が愛おしくて、そっと口づけをする。 このまま彼女を感じていたい。 そんな衝動に駆られる。 俺を受け入れる彼女が、愛おしい。 唇を離すと、つい、本音が出てしまう。 「帰したくねぇな、、、。」 まぁ、でも送っていかなきゃならねぇか。 響の親父さんの顔を思い浮かべると、衝動的な感情にブレーキがかかる。 「まぁ、そういう訳にもいかねぇか。親父さんと約束しちまったしな。」 「、、、うん。」 離れがたいところだが、、、。 「送るよ。」 ゆっくりと身体を離して、ギアに手をかけた。 外は雪景色だ。 降り積もる雪をワイパーで弾きながら、ハンドルを握って、ギアを入れた。 雪の中車は発車する。 彼女が隣にいる、そんな当たり前の日常が続くようにと、心で願う。 波乱なんて起きなくていい。 穏やかなこの日々が、俺にとっては、今一番必要なんだ、、、。 響にとっても、そうであってほしい。 松下の顔を思い浮かべては、心の中でかき消している。 めんどくせぇ事にならなければいいが、、、な。 そう思いつつ、響の家へと車を走らせた。
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