同窓会

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さっきから、気づけば、目線の先の彼女を何度も目で追っている自分がいる。 川合の言った言葉も、気にならない訳じゃない。 就職してから響がこれから会うかもしれない男だ。 なにやら楽しげに話す姿を遠目で見るたび、イラつく気持ちも隠しきれない。 一体何を楽しげに話しているんだ? そんなに話す事があるのか? 松下に笑顔を向ける響に対して、心の奥にモヤモヤしたものを抱えているのも事実だ。 まぁ、気にしても仕方ないが、、、。 たいした事じゃないんだろう。 ただの元同級生のたわいの無い会話だろうしな。 そう思い直し、トイレへと席を立った。 トイレの前は、長蛇の列で、教え子達が並んでいる。 混んでるのか、、、。 立って並ぶのもめんどくせぇな、、、。 出直してくるか、、、と、席に戻ろうとした時、目の前に並んでいた男子が、俺に気づき、声をかけられた。 「あ、伊藤じゃん!!先生もトイレ?」 「あぁ。すげぇ並んでんな。」 「超混んでるよ。なぁ?」 そう言って、男子生徒は、その前に並んでいた、もう1人の男子に声をかける。 その男子も俺の存在に気づき、俺に話しかけてくる。 「先生じゃん!先生彼女いるんでしょー?いいなぁ!!俺に誰か紹介してよ!!俺も彼女欲しい!」 「、、、、。」 めんどくさいのに、からまれた。 2人の男子生徒は、引き返そうとする俺を止めて、話を進める。 「先生、俺の恋愛相談乗ってよー!俺出会い無いんだよー!。どーやったら彼女できんの?俺に教えてよー!」 、、、知るかよ、、、。 「俺も彼女いないんだよ!超1人!。先生、俺この先、どーしたらいい??マジ深刻!!」 、、、知らねぇよ、、、。 男子生徒2人は、恋愛話に花が咲いてしまったようだ。 やべぇな、この空気、、、。 めんどくせぇ。 俺を巻き込みつつ、会話が進み、気付けば、引き返すに引き返せない事態に陥ってしまった。 男子生徒2人は、どこで彼女を見つけるかという話をし始めている。 それより、おまえら、もっと、やる事ねぇのか? あるんじゃねぇのか?? 2人の会話に呆れつつも、仕方なく、その場に居合わせる。 「おまえ、今日ここで探しちゃえばいーじゃん!」 「今日?この場で?マジかよ!!さすがに無いだろ、それは!」 「えー、アリじゃねぇの?おまえ、今日、誰が1番可愛いと思った?」 2人の話を聞いていると頭が痛くなってくる。 男2人で、何くだらない話してんだよ、、、。 だいたいにして、それ、今日来ている女子たちが聞いたら絶対怒るだろうに、、、、。 2人の会話に呆れていると、手前にいる男子が口を開いた。 「俺、この中なら、島田だな!あいつ超可愛くなった!!」 、、、は? 、、、島田?? 「俺も!それ思った!この中なら、俺も島田かもなー。高校の時、そんなに目立たなかったんだけどな。可愛くなってて、ビビった!」 は?? 男子生徒2人の会話に唖然とする。 、、、おいおい、おまえら、何言ってんだ?? 何考えてんだ? 「髪も伸びて、なんか可愛いよな?服も清楚だし、化粧も濃くないし、なんか雰囲気大人っぽくなったんじゃねぇ?絶対可愛いって!」 は?? おいおい、、、マジかよ、、、。 あいつ、、、そういう目で見られてんのか?? 複雑な感情を抱きながら、男子生徒の会話を黙って聞き入る。 「でも、島田、委員長に持っていかれるぜ!」 「あー、わかる!委員長押しまくってるもんな!俺も思ってた!!」 男子生徒が2人して委員長の名前を出す。 、、、ん? 何だって?? 委員長?? 、、、って、松下の事か?? 2人の会話に一瞬耳を疑うが、男子生徒は楽しそうに話を続ける。 「委員長、キャラ変わりすぎじゃね?島田にグイグイだし、あれ、完璧2人の世界だよな??今日カップル成立するかもなー!」 「島田絶対持っていかれるぜ!!。あれは、お持ち帰り決定だな!」 、、、は? こいつら、何言って、、、。 カップル成立? お持ち帰り、、、だと?? こいつら、何勝手な事言ってんだ? 2人の会話を聞いていると、気が遠くなり、なおさら頭が痛くなりそうだ。 男子生徒は、面白がりながら話を進める。 「委員長さ、高校の時、島田の事好きだったんだぜ!」 、、、は?? 男子生徒の言葉に一瞬息を飲む。 何だって?? 高校の時、、、好きだった?? 男子生徒の言葉に引きこまれて、その場から動けなくなる。 引き返そうとも思ったが、そんな話が出てくるとは、、、。 松下が、、、? そうなのか?? 男子生徒は楽しげに、その話を膨らませ始めた。 「え!マジで?そーなの?それ初耳なんだけど!」 「マジマジ!!学祭の時に委員長の好きな女の話になってさ、無理矢理聞き出したら、委員長白状したんだぜ!」 「マジかよ!なるほどねー!高校の時からかよ。へー。納得だわ、それ。だから、今日会って、燃え上がっちゃった訳だ!」 「そーそー。だから、島田にグイグイ行ってるんだぜ!委員長マジ変わりすぎだよな!!超びびる!」 「茶髪だしな!あのガリ勉が、どーした訳?超うけるんだけど!!」 、、、、。 2人の会話を聞きながら、愕然とする。 釈然としない感情が、渦を巻いている。 一体どういう事だ?? 松下は高校の時から島田を好きだ、、、と?? 今日の松下の行動を考えると、確かに腑に落ちる点が大いにある。 なるほど、、、。 そういう事、、、か。 川合の言っていた事も、一理あるという訳だ。 ある訳ないと思っていたが、、、。 そうか、、、。 そういう事だったのか。 なるほど、、、な。 男子生徒の話に、納得する自分がいる。 話を聞いていると、松下が一方的に熱を上げているようだ。 まぁ、単純に、厄介、、、と言えば、そうだが、、、。 響がその気になる筈がない。 響に限って、それは無いだろう。 そう、自分に言い聞かせながら、男子生徒達の会話を黙って聞く。 「島田って、高校の時、川合と仲よかったじゃん?委員長も、川合と付き合ってると思って、告白出来なかったらしいぜ?。でも、今日見てたら、いい感じだよな?案外コロッと行ったりしてな!」 「委員長かなり押してるからなー。北大医学部に押されりゃ、そりゃ、行くだろ!!あーあ、委員長、羨ましいいわ!俺も島田の所行ってみよっかなー。俺もいけんじゃねえかな?」 は?? こいつら、俺の前で、よくそんな口を叩けるもんだな、、、。 身動きのとれない自分が、歯痒くも思えるが、この場は仕方がない。 黙って口をつぐんでいる。 「あはは!おまえ無理だって!北大医学部には、どーやったって勝てねぇよ、俺らは!」 「だよなぁ。三流大とは格が違うよなー。 あー!マジで委員長羨ましいわ。」 、、、こいつら、、、。 、、、おいおい、なんだ、この話の流れは?? 2人の会話を聞いていると、松下が、もう島田を落としたかのような言い分じゃねえか。 誰がコロッといくだって?? おい、待て!と、2人を制止したい気持ちに駆られるが、ここで俺が何かを言う訳にもいかない。 釈然としない感情を抱きながら、松下の行動を思い返してみる。 2人の話からも、明らかに、松下は、何らかの目的を持って響に近づいたんだろう。 それは、わかるが、、、。 話を聞いているうちに、トイレが空き、列がスムーズに動く。 くだらない恋愛話も終わり、男子生徒がトイレから出て行き、散っていく。 、、、、。 おいおい、冗談じゃねぇぞ。  響の気持ちが松下に無いにしても、、、だ。 松下の思惑を知ってしまった以上、黙って見過ごしていいものか。 しかも、他の男が、彼女を可愛いと言っているのを耳にして、心情穏やかではいられないのも本心だ。 トイレを出て、ざわついた宴会場へと戻る。 自分の席につき、そっと彼女の方へ目をやると、 松下と2人で話し込んでいる響の姿が見える。 、、、まだ話してんのか?? 響の耳元近くで、顔を近づけ、何かを話している松下。 そんな松下に、響も楽しそうに笑顔を向けている。 、、、おい、距離感おかしいだろ。 気づかれないように、そっと目で追っていると、 席を移動していた川合が隣に戻ってきた。 「まだ喋ってんぞ、あいつら。」 「、、、、。」 「響も、楽しそうにしちゃってよ。まぁ、それはどーでもいーけど。それにしても、あの委員長、どーも気に入らねぇ!」 突然、川合が、怒りを露わにする。 「なんでよ?」 「さっき少し話したんだよ。そしたら、川合君、浪人して良かったね、浪人してまで東大入れて良かったね、だとよ!!しかも、他の女子も、委員長かっこ良くなったって口を揃えて言うし!医学部が何だってよ!!俺の立場を踏みにじりやがって!!あいつ、何なんだよ!大学デビューのくせによー!」 「、、、、。」 要するに川合は、自分が1番でなければ気に入らない訳だ。 女子からの人気も奪われ、立場も危うくなってきたのを自覚し始めたんだろう。 面白くない顔をしている川合の気持ちも、まぁ、わからなくもない、、、か。 確かに、松下の態度には目に余るものがある。 さすがに、もうそろそろ止めに入りたい所だ。 いつまでも泳がせておきたくねぇしな。 「、、、おまえ、ちょっと行ってこい。」 「はぁ?何でだよ!俺あいつ嫌いだから行きたくねぇよ!」 「いいから行ってこい。」 この現状を打破させる為には、川合を投入させるしかないだろう。 俺が勧めると、川合の表情がコロッと変わる。 ふてくされた顔から、ニヤついた顔に変わるのは早いものだ。 「そーゆーことか!わかったぜ!俺に歯止めをかけてこいって事だな!」 「、、、、。」 俺の意図を素早く察知しやがって、、、。 まぁ、こいつに手の内を読まれるのはいつもの事だ。 「いーから、早く行ってこい。」 「ったく、手の焼ける先生様だな!わかったよ!」 そう言って川合は、渋々腰を上げた。 もうそろそろいいだろう。 2人の世界だ? そんなものあってたまるか。 教師という立場がなければ、早々に響を連れ出している所だが、動けないとなると、川合に託すしかねぇか、、、。 はぁ、、、。  ため息ばっか出るな、今日は、、、。 早々に帰るつもりでいたが、この状況じゃ、帰るに帰れねぇじゃねえか。 至近距離で話す2人を目の当たりにして、早々に帰る気も失せている。 おもしろくないというのが本心だ。 、、、悪いけど、俺も独占欲の強い男なんだよ。
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