同窓会

7/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
駐車場に向かって歩く足取りは、さっきまでとは違って、、、重い。 とりあえず、松下君から手渡された連絡先の紙は、鞄の中に入れたけれど、、、。 鞄の中が、なんだか重く感じる。 はぁ、、、。 どうしよう、、、。 連絡しなきゃいいだけの話なのかな。 、、、でも、きっと、就職したら会うよね?? それを考えると、とても気まずい気もする。 連絡した方がいいのかな?? ちゃんと、付き合ってる人がいるって、言わなきゃならないよね、、、。 付き合ってる人がいるって言ったら、松下君納得してくれるのかな、、、。 その後も大学で顔を合わせる事になるんだよなぁ。 気まずくなるのは、避けたいところだけれど。 でも、、、。 そんな事を考えながら、気づけば、駐車場の入り口に着いていた。 はぁ、、、。 ため息がこぼれる。 どうしよう、、、。 先生に言ったほうがいいのかな?? 車を見つけて、ゆっくりと近づくと、窓越しからタバコを吸っている先生の姿が見えた。 その姿を見ると、ドクンと心臓が高鳴る。 、、、どうしよう、、、。 気持ちを落ち着かせつつ、ゆっくりドアを開けて、助手席に乗りこんだ。 車の中は、外の寒さとは全く違う暖かい空気で充満している。 いつもの車内の匂いに包まれて、少しほっとしつつ、隣でタバコを吸う先生に、声をかけた。 「、、、ごめんね?、、、待った?」 「、、いや?。そーでもないけど。遅かったな。」 先生はいつもと変わらず淡々とした口調で、タバコの煙を吐き出す。 「、、、あ、ごめん、、ね。あの、、ちいちゃんと、ちょっと外で話し込んでて、、。」 「、、、そうか。」 「、、、、。」 ちいちゃんと話していたのは本当だけど、、、。 松下くんの事は、、、なんだか言いづらくて、 隠すような言葉を選んでしまった。 後ろめたい気持ちが胸に突き刺さる。 息苦しい、、、。 「寒かっただろ。降ってきたしな。」 「、、あ、、うん。」 降り続ける雪。 ワイパーの音が車内に響く。 、、、なんだか、ぎこちない。 微妙な空気が車内に漂う。 先生は、タバコを吸いながら、ずっと窓の外を見ていて、、、。 すぐに車を発車させない先生を不思議に思いながらも、鞄の中にある重いものが、心にひっかかっている私。 静かさが漂う車内。 いつもとなんだか違う。 きっと、私に後ろめたい気持ちがあるからだ。 余計に、そう感じてしまう。 先生に言った方がいいのかな? どうなんだろう。 でも、嫌な気分になるかもしれないし、、、。 鞄の中の松下くんの気持ちが、私の心を重くしていた。 さっきの出来事が無ければ、、、。 同窓会の話をして、楽しかったねって、きっと、先生と会話が弾んでいたはず。 だけど、正直そんな気持ちになれない。 どうしたらいいのか、わからない、、、。 重い空気に包まれている私。 そんな私を見て、先生の鋭い勘は、私の心の内を素早く見抜く。 「、、、何かあっただろ。」 「えっ??」 「顔に出てる。」 !!!! 顔!!?? 先生にそう言われて、とっさに顔に両手を当てる。 「おまえはわかりやすいからな、、、。」 先生が呟く。 そうか、、やっぱり、わかっちゃうんだ、、、。 先生の鋭い視線が、私の心の奥を突き刺す。 ここは、素直に認める他ない。 嘘をついても、きっと、先生にはわかってしまう。 正直に言おう、、、。 「、、、あのね、、」 意を決して、話を切り出そうとした私に、先生はタバコの煙を吐き出しながら、核心をついた言葉を言い放つ。 「告白でもされたか。」 !!!! 「えっ!!!なんで!?!?」 つい、大きな声を上げてしまった。 まだ何も言ってないのに、どうして、、、!?!? びっくりしている私に、先生は、淡々と、タバコの吸殻を灰皿に押し付けた。 「、、、やっぱり、、な。」 、、え?? 「やっぱりって!?」 「、、、いや。」 先生はそう言って、ふぅっと小さなため息をついた。 先生の意図することは、わからない。 だけど、先生は物事の全体を捉えているような素振りだ。 やっぱり、、、ってどう言う意味だろう?? 車中の空気がまた一段と重くなる。 だけど、嘘はついちゃいけない。 先生に嘘はつきたくない。 ちゃんと言おう。 「、、あのね、、松下君ってわかる?。帰りにね、急に呼び止められて、、、。」 先生に打ち明ける。 先生は、腕組みをしながら、伏せ目がちに、静かに私の話を聞いている。 何て説明していいのか、頭の中でも整理がつかないけれど、、、。 さっきの出来事を思い出しながら、話を続けた。 「あのね、、告白っていうか、、、。はっきり言われた訳じゃないんだけど、、、。よくわからないんだけど、、、。連絡先を教えて欲しいって言われて、、、。」 「ふぅん。、、、それで?」 物静かな先生の口調が、より緊張感を高める。 嫌な気分になってるかな? 聞きたくないかな?? どうしよう、、、。 先生の気持ちを手探りで考えながら、話を進めるけれど、、、。 先生は、腕組みをしながら、じっと聞いている。 「友達になりたいって言われたんだ、、。」 「、、、ふぅん、、。友達、、ね。」 窓の外を見て、ボソッと呟く先生。 車内の空気が重い。 先生は、淡々と相槌をうつだけで、その表情からは、気持ちは読み取れない。 やっぱり、気分を悪くしてるかな? こんな話聞きたくないよね、、、。 話を切り出した事が、本当に良かったのかな。 だんだんと気分が落ち込んでいく。 やっぱり言わないほうが良かったかな、、、。 先生は、ハンドルに手をかけ、人差し指でトントンとハンドルを軽く叩く。 その仕草に、一瞬はっと、息を飲んだ。 あ、、、渋滞の時に、たまに見る仕草、、、。 それは、先生がイライラした時に見せる仕草だからだ。 「、、、それで?。教えたのか。」 目線を合わせずに、先生が聞く。 「あ、ううん!!私も急に言われてびっくりしちゃって、、、。」 「、、、ふぅん。」 先生の態度から、イライラしている空気を感じて、咄嗟に否定はしたものの、、、。 車内の空気が気まずい。 先生の態度から察する限り、絶対に聞きたくない話なんだ、、、。 先生、怒ってるよね?? 鞄の中にある、松下君の連絡先、、、。 これは、言わない方がいいのかな、、、。 先生を嫌な気分にさせちゃった、、、。 「、、、ごめん。」 「別におまえが謝る事じゃないだろ。教えてないなら、電話くる事もないんだろ。」 私が謝ると、先生はそう言って、ハンドルに手をかけながら、窓の先の降り積もる雪を見つめている。 確かに先生の言う通りだ。 連絡先を教えていないから、松下君から連絡は来ることはない。 けど、、、。 電話をしてほしいと渡された連絡先、、、。 先生に相談したいけど、、、。 もうこの話はしないほうがいい気がする。 これ以上先生を嫌な気持ちにさせたくないから。 俯き、頭の中で色々考える。 やっぱり、自分で解決しよう、、、。 先生にばっかり頼ってちゃダメだよね、、、。 松下君には連絡して、ちゃんと断ろう。 そうだよね、私が断れば良いだけの話だよね、、、。 頭の中で、気持ちを整理しながら、なんとか解決策を見出していると、先生の鋭い視線が私に向く。 「まだ何かあるみたいだな。」 「、、、え!あっ!ううん!!」 「嘘つくな。だから顔に出てるって言っただろ。」 ため息混じりに先生が言う。 そんなに、私、わかりやすいんだ、、、。 嘘をつくなと言われた以上、隠しておけるはずもなく、、、。 、、、やっぱり、うやむやにしたくない。 松下君からの連絡先を持っている限り、私の心は晴れないんだ。 悩みの種はずっと心を重くするだけだ。 「ちゃんと言って。」 先生に促され、全てを話す事に決めた。 「、、、うん。、、あのね、松下君から連絡先の紙をもらったの。いつでもいいから連絡してほしいって言われて、、、。」 そう言うと、窓の外を眺める先生の表情が一瞬曇った気がした。 「、、、連絡ほしい、か。」 「、、、ごめん。付き合ってる人がいるって言おうとしたんだけど、松下君すぐに走って行っちゃって、、、。でも、ちゃんと断るつもりだから!!」 松下君には、電話をして断ろう。 先生に余計な心配はかけたくない。 俯きながら、膝の上にある、小さなハンドバッグをぎゅっと握った。 先生は、ふうっと小さなため息をつきつつ、ぼそっと呟く。 「、、、直球投げてきた訳だ。」 「えっ??」 先生の言葉に、ふと顔を上げると、先生は強い力で、私の顎をグイッと持ち上げた。 先生の顔が急に近づく。 先生の唇が、私の唇に覆い被さる。 荒々しく強引に、唇を押し付ける先生。 体が硬直してしまう。 「、、、!!!」 いつもの優しいキスとは全然違う。 咄嗟に奪われた唇に、一瞬頭の中が真っ白になる。 先生の強引なキスは、息をするのも、ままならないくらい、私の意識を、朦朧とさせる。 雪の舞う夜の駐車場。 誰も周りにはいないけれど、、、。 側から見れば、どんな光景に見えるだろう。 いつのまにか、先生の強引なキスに身体を委ねる私。  先生の荒々しい口づけが、少しずつ心地よくなってきたところで、先生が唇をゆっくり離す。 「、、、っ、、。」 呼吸が少し乱れて、意識が混沌としている私の耳元で、先生が囁く。 「スキみせんなよ。」 、、、!!! 先生の言葉が耳奥で何度も響く。 先生の強引なキスの理由が少しわかった気がして、 尚更、顔が赤くなる。 、、、スキ、見せてるのかな、私、、、。 先生は、そのまま私の肩を抱き寄せた。 先生の胸元に抱き寄せられ、先生に包まれる。 先生の鼓動が、耳元で聞こえる。 「、、、ごめん。私、スキあるのかな、、、。」 そんなつもりは無かったんだけど、、、。 先生はふぅっと小さなため息混じりに、呟く。 「、、、まぁ、あんだけ楽しげにしてたら、勘違いする奴もいるんじゃねぇの?。」 先生の言葉にはっとする。 そうか、、、。 先生は、同窓会で、私と松下君の事を見ていたんだ、、、。 そして、先生の目には、楽しげに見えていたんだ、、、。 「断るって、おまえ、まさか連絡するつもりじゃねぇだろうな。」 私の肩を抱きながら、先生が言う。 「、、、え、、、うん。そのままにしておくのも、なんか気まずいし、、、。ちゃんと断ったほうがいいいよね、、、。」 そう言うと、先生は、はぁっと大きなため息をついた。 「おまえが連絡したら、向こうの思うツボだろ。そんなんほっとけ、ほっとけ。」 そう言って、私の肩にあった先生の手は、私の頭を優しく撫でる。 ほっとけ、、、って。 先生は、そう言うけれど、、、。 「、、、いいのかな?松下君、北大の図書館によく来るって言ってたから、これからも会うかもしれないし、、、。会ったら気まずいよ、、、。」 先生の胸の中で、心の内を打ち明けるけど、、、。 「そんなもん、ほっとけばそのうち気が変わるだろ。」 先生はぶっきらぼうに言う。 、、、そうなのかなぁ?? そういうものかなぁ?? でも、先生がそう言うなら、そうなのかもしれない。 「、、、うん。わかった。」 そう先生の胸の中で呟くと、先生は、少し身体を離して、私の顔を覗き込んだ。 「本当にわかってんのか?」 呆れた様な顔をしながら、先生が聞く。 「わかってるよ!大丈夫だよ!!」 そう言うと、先生はふっと笑い、優しく微笑む。 その笑顔にドキドキしてしまう。 やっぱり隠し事はしちゃだめだ。 先生には敵わない。 隠さずに言って良かった、、、。 先生に安心してもらいたい。 私の心は先生に向いているんだって事、、、。  いつだって、どんな事があっても、、、。 優しい瞳で私を見つめる先生の顔が近づく。 先生に身を委ねて、自然と目を閉じる。 優しく口づけされて、幸せな気分になる。 先生、私、先生の事が大好きだよ。 このまま、ずっと、一緒にいたい、、、。 先生をずっと感じていたい、、、。 そう思わずにはいられない。 先生の口づけがあまりにも優しくて、全身が溶けてしまいそうだから、、、。 そっと唇を離した先生がボソッと呟く。 「帰したくねぇな、、、。」 え?? 「まぁ、そういう訳にもいかねぇか。親父さんと約束しちまったしな。」 ふっと笑っいながら先生が言う。 ああ、、、そうだ。 今日は早く帰るって、、、出かける時に言ってきたんだった、、、。 「、、、うん。」 離れがたいけれど、、、。 このまま先生と一緒にいたい気持ちは同じ、、、。 「送るよ。」 ゆっくりと身体を離して、先生はギアに手をかけた。 外は雪景色。 降り積もる雪をワイパーで弾きながら、車はゆっくりと動き出だした。 、、、一緒にいたかったなぁ、このまま、、、。 とりあえず、鞄の中の連絡先は、しばらくそのままにしておこう。 先生の言う通りかもしれない。 連絡しなければ、松下君の気持ちも変わるかもしれない。 そうであって欲しい、、、。 気まずくなるのは嫌だけど、会った時の事を考えると、少し憂鬱だけど、、、。 先生が嫌な気持ちになる事は、したくない。 私たちのこの幸せが、壊れるような事だけは、 どうかなりませんように、、、。 そう、心の中で祈りつつ、、、。 先生に全てを話した事で、少し気分が軽くなった気がしていた。 今の幸せがいつまでも続きますように、、、。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!