同窓会

1/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「3Eの同士たちよ!!成人おめでとう!!今日はパーッと飲んで騒ごうぜー!!かんぱ〜い!!」 「かんぱ〜い!!!」 お調子者の川合の挨拶でこの会は始まった。 3年E組の同窓会というやつだ。 今日は彼らは、成人式だった。 その夜に、これだけの人数がよく集まったものだと、場を見渡して、関心する。 川合の力なのか、千草の努力なのか。 まぁ、それはどーでもいいが、、、。 遠方に就職した教え子から、道外に進学した教え子まで、よくここまで集まったものだ。 総勢25名が集まると、この貸し借りの居酒屋の個室も、かなり騒々しい。 来れなかったのは、10名程度というから、同窓会にしては、かなり集まった方だ。 教え子達も、2年経てば、見た目も変わっていて、化粧をして化けている女子やら、髪の毛を茶色く染めて大学生活を謳歌している男子やら、色々いて、見ているだけで、腹いっぱいになる。 まぁ、成人式の後だ。 女子は化粧が濃いのも仕方ないとしても、、、だ。 つい最近まで高校の制服を着ていた生徒達はどこへ行ったのか?と疑いたくなるほどだ。 そして、なにより違和感を覚えるのが、成人式を終えたばかりだと言うのに、ビールのジョッキーを掲げて酒を酌み交わす光景だ。 おまえたち、まだ20になってない奴もいるんじゃないのか?? タバコをくわえて、得意げに煙を吐き出す奴もいる。 おいおい、、、一応、元教師がいるんだぞ、、、。 まぁ、成人式でこんなに同級生が集まっているんだ。 ハメも外したいところだろう。 少し目を瞑ることにしてやるか、、、。 川合の機転なのか、一応上座を用意してくれたんだろうが、、、。 隣には幹事の川合が、当たり前のように居座っていて、微妙にめんどくさい席だ。 おまえ、幹事なら、下座だろ、、、。 ったく、、、。 仕切りたがり屋は、全体を見渡せる場所に居座りたいんだろう。 川合の心のうちが手にとるようにわかる。 俺は、同窓会という名のつくものが、何より嫌いだ。 教え子に会って感動するという教師の心が知れない。 卒業したんだ。 もう、手は離れたんだ。 それぞれ人生好きに生きればいいだろう。 だいたいにして、教え子たちは教師になんか会いたくないだろうが。 めんどくせぇ。 適当に食って、早く切り上げるか、、、。 はぁっとため息がこぼれた。 「んじゃ!!乾杯を先にさせてもらって悪いんですがー、今日は恩師が来ていただいているのでー、 挨拶していただきたいと思いまーーーす。」 隣に座っていた川合が、急に立ちだし、俺に向かって、目で合図する。 、、、きたか。 、、、やっぱり、、な。 この場に来る事になった時点で、避けられる訳はないとは思っていたが、隣で、棒読みのセリフを心なしに言う川合を見ると、腹立たしい気持ちになる。 「えーと!!伊藤先生から、一言!!よろしくお願いしまーす。」 川合の隣に何故か座っている千草も、棒読みのセリフで俺に振る。 ったく、なんなんだよ、、、おまえらは。 ヘタクソな小芝居しやがって、、、。 苛立つ気持ちを抑えつつ、まぁ、仕方ないかと、気持ちを切り替え、その場に立つ。 別に、あえて、この場で何も言うことは無いが、、、。   「あー、成人おめでとう。これから人生長いんで、みんな頑張って。飲み過ぎないよーに。以上。」 これくらいしか無いだろう。 そう言い終え、その場に座ると、外野からのヤジが飛ぶ。 「伊藤、超適当ー!!!」 「先生、変わんないねー!!」 「伊藤おもしれぇな、ほんと!」 一気にざわつく室内。 こういう挨拶めいたのが、1番嫌なんだよ、、、。 めんどくせえ、、、。 早く鎮まってくれと思っていると、隣から、不機嫌そうな顔をした川合のウンチクが始まる。 「せっかく、お膳立てしてんのに、なんだよ!その挨拶は!もっとあんだろーが!心に残る一言とか言えよ!」 はぁ? 「、、、なんだよ、心に残る一言って。」 「もっとよー!何かあるだろーが!」 「、、、ねぇよ。」 川合の愚痴を聞き流しながら、ふと目を追うのは、遠くに座る彼女の姿だ。 化粧に化けた女子の間に挟まれて、何やら話が弾んでいるようにも見える。 成人式を終えた後に、化粧を落としてきたんだろう。 薄化粧の彼女が、初々しく少し幼げに感じるのは気のせいか。 、、、楽しんでんのか? まぁ、楽しみにしてたからな。 高校の時の友達に久しぶりに会えると、今日のこの日を彼女は楽しみにしていた。 まぁ、楽しそうなら、良かったが、、、。 俺は、この苦痛な時間をどう過ごせばいいんだ? 隣には、うるせぇ奴はいるし。 何がお膳立てだ。 いらねぇよ、そんなもん。 隣をふと見ると、ビールを飲み干し、上機嫌になっている川合。 何杯目だ?と思うほど、ピッチが速い。 「おまえ、飲み過ぎじゃねえのか?」 「いーんだよ!成人式なんだから!」 「あっそう。」 まあ、好きにすればいい。 こいつが酔っ払おうが、俺の知った事じゃねえしな。 早く時間が過ぎろと願うばかりだ。 次々に料理は運ばれてくる。 各々、注文する酒に店員がバタバタしている。 ザワザワからガヤガヤに変わるのは早いものだ。 「、、、すげえな。」 高校生の初々しい教え子達の姿はもはや無く、その場は、単なる若者たちの飲み会へと姿を変えている。 ふと、遠目で彼女を見ると、彼女の頬は赤くなっている。 いかにも、酒を飲んだような顔つきだ。 おいおい、飲んだのか? 今日は飲まないと言っていた彼女の言葉を思い出すが、、、。 まぁ、きっと、周りに勧められたんだろう。 赤らめた彼女の顔を見ると、少し心配になる。 あんまり、飲みすぎんなよ、、、。 彼女を気にしつつ、コーラに手を伸ばすと、 隣の酔っ払いが絡んできた。 「伊藤、何飲んでんの?」 「コーラ」 「コーラ!?何で飲まねぇんだよ!!成人式だぜ?」 「だから何だよ。飲まねぇよ。俺車だし。」 「ちっ!つまんねぇな!。いつもスカしやがってよー!。腹立つなぁ!!」 おいおい、、、こいつ、かなり酔っ払ってねえか? 俺が教師という事をすっかり忘れている川合の態度に、苛立ちを通り越して、もはや呆れてしまう。 また始まっのか、、、と、酔っ払いを適当に交わす俺の態度に、さぞ腹が立ったんだろう。 川合が、急に大立ち上がり、声をあげた。 「おーい!みんなー!!注目ー!!ここにいる伊藤先生はーーー!」 !!!!???? おい! おまえ、急に何言い出すつもりだ!?!? 川合の突拍子の無い言動を止めようとするが、場は、シーンと鎮まり返り、動くに動けない。 小声で、「おいっ!川合、、、!!」と、隣のアホを睨むが、全く見もしない。 川合は鎮まった場内を確認すると、声を張り上げた。 「なんと!!!彼女がいまーーす!!」 こいつ!!! 何言い出すんだ!? 酔っ払って、饒舌になっている今の川合は、さすがにまずい。 千草も、調子に乗る川合を見て、オロオロしながら周りを見回している。 はぁ、、、。 こいつ、なんて事を、、、。 川合の一言で、教え子たちがざわつき始める。  「えー!?!?先生、彼女いるのー??」 「伊藤に彼女!?嘘だろ?」 「マジかよ!伊藤に彼女だってよ!!」 静かに身を消していたのに、一気に注目の的になってしまった。 ったく、、、なんて事をしてくれるんだよ、、、。 頭を抱えて、深いため息が出る。 チラッと遠目で彼女の方に目をやると、ビクビクと恐怖に怯えている表情が目に入る。 ったく、、、。 マジでふざけんなよ、、、。 酒が入った川合の勢いは止まらない。 「はーい!!ここからー、伊藤先生への質問ターイム!!何聞いても伊藤先生は答えてくれまーす!」 は!?!? 何だと!?!? 「おいっ!何言ってんだよ!そんなの答えねーよ!」 思わず、大きな声が出てしまったが、教え子たちは、盛り上がるばかりで、、、。 「伊藤認めた!!マジで彼女いるんだ!」 「伊藤も男なんだなぁ!女興味ないフリして、彼女いたのかよ!」 「えー、何聞くー??」 「伊藤の彼女だぜ?何聞き出す?」 「おもしれぇな!俺質問したーい!」 「私もー!!」 生徒たちの勢いに火をつけてしまった、、、。 がっくりと肩を落とす。 川合は、その場を見渡しながら、満足気に腰を下ろした。 ニヤニヤした顔で小声で俺に耳打ちをする。 「誰かってのは言わねーよ。俺もバカじゃねえし。そのかわり、質問には答えてね。伊藤先生。」 、、、何が質問だ! 「いい加減にしろよ!」 俺の牽制も、びくともせずに、勝ち誇った顔をする川合に、苛つくばかりだ。 、、、ったく!! 何で俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだ? 何が質問タイムだ! ふざけんなよ。 怒りが収まらない俺に、また小声で、耳打ちする川合。 「ちゃんと質問に答えなきゃ、彼女の名前、言っちゃうかもよぉ??」 !!!!! こいつ!!!! 酔っ払い相手にムキになる俺もどうかしているが、酔っ払いだからこそ、今日の川合は危うい。 「はーい!質問ある人ー!手あげてー!」 川合が得意げに仕切り出す。 もう、こうなったら仕方ない。 適当に交わすしかねぇな。 半ば諦めの気持ちで、この場が終息するのを見守る事にした。 いや、するしかなかったんだ。 困惑した顔で俺を見る彼女。 そうだ、彼女のためだ。 彼女のために、ここは絶対隠さなければならない。 隠し通さなければならないんだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!