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北国の冬は早くて、今年は十一月の初旬に初雪は降るし、朝晩は一桁の気温で。
ここは最北の繁華街、すすきの。
その繁華街とはちょっと違う、飲み屋街から外れたいかがわしい店の集まる場所に、俺 椎名凛が深夜にバイトに入ってるコンビニがある。
大学生という、人生で一番時間を無駄に生きてる、と店長に言われるけど(笑)
それでも、奨学金を利用してまで大学通うのは、将来の夢があるから。下にまだ二人も兄弟が居て、本来なら働くべきなのに俺のわがままで大学に行かせてもらってるのだから、両親にこれ以上の負担はかけたくない。
ここよりずっと北の何も無い街で育った俺は、もうずっと自分の性癖に悩んでいたし、誰にも相談なんて出来ることじゃないからいつかは札幌に出て、そういう人と出会えるといいなと思っていた。
でも、実際に来てみると札幌の人達はは他人に興味がなく、狭いコミュニティの中では自分の性癖をさらけ出せるほどの開けっぴろげさはないし、俺もそこまで暇じゃなかった。
道内最高峰の大学は勉強が吐くほど難しいし、ついて行くのがやっとなのに生活費は稼がなきゃならないし、バーなんかに行く余裕がない。
唯一、同じバイト仲間の真田がオープンなゲイで、ことある事に口説かれているが。
「いらっしゃいませ」
最近よく来る客は、もう成人しているような体躯と、まだ中学生にも見える顔の、アンバランスさが面白い と思っていたんだけど。
会計した時「ありがとう」と言う、その気遣いや、その時に見せるはにかんだような笑顔に、ドッキュンとやられた。
必ず買う、ツナマヨとシャケと昆布と梅のおにぎりは、彼が一人で食べるのにはほんの少しだけ多い気がする。
彼はおにぎりだけじゃなく、サンドイッチか麺類を一緒に買うから、もしかしたら一食分じゃないのかもしれない。
でも、ついでのように買うコンドームやジェルなんかはもう、何に使うのかなんてハッキリしてるし、たまに外にいる誰かに手を振ったりするから、もう恋人がいるんだろうなと思う。
ここは一本中に入ると、普通に単身者向けのマンションもあるし、反対側にはラブホも乱立してる。
そんな場所にあるこのコンビニは、そういったカップルも多く利用してる。
札幌はいい意味で他人に興味が無い。
隣に住んでいるのがゲイでもヘテロでも、自分は自分、他人は他人なのだ。
年に一回ある大きな祭りは、普通に手を繋いで歩いてるゲイのカップルがいても気にならない人が多く、俺たちのようなマイノリティには生きやすいはずなのに。
いいな、と思った人には相手がいるし、気が合えば誰でもOKと言うような、こちらからはお断りしたい人には好かれるし。
相手が同性でも異性でも、人生はままならないんだなぁと、ため息がでる。
「お願いします」
いつものツナマヨとシャケと昆布と梅のおにぎり。
「――円になります。おにぎりは温めますか?」
「いえ、大丈夫です」
ルーティンのように聞く、レンジ使用の確認。今日はパスタサラダと、ラーサラ。
北海道にしかないのか、よく観光客が「これはなんだ」と聞くが、ラーメンのサラダだ。パスタサラダのパスタがラーメンになった程度の認識で間違いはない。
こっちでは、各家庭でも普通に作る定番メニューなんだけどな。
「これ、美味しいですよね。オレも教えてもらって食べてみたんですけど、パスタよりずっとサッパリしてますよね」
ね、と隣にいる男に同意を求めるその、斜めに傾げた顔があざと可愛い。
くぅううう。
もっと早くに出会っていれば、と嘆く俺のケツを触りながら、真田さんが「だから俺にしとけって」とニヤニヤ笑う。
何度も言うようだけど、俺はタチなの!
バリタチのあんたとだったら、ネコになっちゃうでしょ!
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