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優花はスーツに着替えて姿見の前に立つと、
「よし。」
とつぶやいて部屋を出る。
小倉優花は24才、OA機器の会社で働いている。
入社2年目の優花は仕事に慣れてきた分、任される仕事も増えてきて、毎日忙しく働いていた。
優花は会社の手前にあるポストにハガキを投入する。
高校のクラス会の出欠確認のハガキだ。
当時の担任の先生が還暦を迎えるお祝いをみんなでするのが目的らしい。
優花は担任の先生へ特別な想いはないけれど、クラスのみんなに会いたいので出席するつもりでいる。
「おはよー。」
突然後ろから声をかけられて振り返ると、同期入社の安藤芽郁が長い髪を風になびかせて立っていた。
「おはよう。」
「手紙?」
「クラス会の出欠のハガキ。」
「クラス会?
中学?高校?」
「高校。」
「いいね。
私まだ高校のクラス会はやったことないな。
中学は成人式の時にやったけど。」
「当時の先生が還暦なんだって。
それでみんなでお祝いしようって。」
「そうなんだ。
で、行くの?」
「うん。
行こうと思ってる。」
「ゆうちゃんの実家って遠いんだっけ?」
「電車で2時間くらい。」
「そっか、日帰りする気ならできるけど、手放しで近いとは言い難いね。」
「そう、そんな感じ。」
会社に入ってエレベーターに乗ると、5階で芽郁と別れて自分の席へ向かった。
『クラス会か……。』
優花は心の中でつぶやいた。
大学を卒業して今の職場に就職してからは、長期休暇の時に数日帰るだけで、しばらく実家に帰っていない。
家族仲が悪いわけではないけれど、地元にいるとなんとなく辛いのだ。
何が辛いかと聞かれると答えに困るけど、ただただ辛い。
水の中で生活するような息苦しさを感じるから。
それでもクラス会のために実家に行こうと思ったのは、いつも見るあの夢が実家の近くにある橋の上だから。
前よりも頻繁に見るようになったあの夢が何なんか、確かめたかった。
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