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 王の居室を辞してからというもの、小芳は一言も言葉を発しない。硬い表情を崩さないまま、ただ地面だけをじっと見つめていた。 「許せ、小芳。お前の意見も聞かず、勝手をした」 「いいえ、瑛翠様のお申し出がなければ私は今こうしてここにいません。ただ無力な自分があまりに情けなくて……」 「何を言う。無力なのは私だ。あの方がこのことを知れば、愚かな真似をしたものだとお怒りになるだろう」  瑛翠は三日の内にいなくなった金蓮を探し出すと王の御前で誓った。そして彼を見つけられなかった場合は、これまで蓄えてきた私財の全てと、瑛翠と小芳、二つの首を差し出すと約束をしたのだ。 「あの方は、金蓮様は一体どこに消えてしまわれたのでしょう? ご無事なのでしょうか?」 「さあな。一つ確かなことは、自分を二度も地獄へ突き落とそうという男を、あの方は決して許さないだろうということだけだ」 「瑛翠様……」  かつて、瑛翠は自由を得るために、彼を旺偉に売ったのだ。この期に及んで今尚自分を連れ戻そうとする瑛翠を、彼は今度こそ殺したいほど憎むに違いない。そしていくらかの悔恨と共に、彼の中で瑛翠は一生生き続けるのだ。 (あの子の手にかかって死ぬ。それは私にとってはこの上なく甘美な空想だ) 「失礼いたします。劉瑛翠様とはあなた様でしょうか?」  背後からかけられた声に物思いを遮られ、瑛翠は後ろを振り返った。少し距離を置いて、女が一人立っている。どこかの下女のようだが、喉が潰されていないということは王の使いではない。 「劉瑛翠は私だが、何用か?」 「中書令様が劉様をお呼びです」 「……旺偉様が?」 「はい。必ずお連れするようにと」  日頃は感情を面に出すことのない瑛翠だが、その言葉を耳にするなり、ひくりと顔を引き攣らせた。  ここに来れば、彼に会わないわけにはいかないだろうことはわかっていた。だがやはりその名を聞くと、心と体が萎縮してしまう。 「あの……、瑛翠様?」 「――ああ、大丈夫だ。お前は先に厩に行っていなさい」 不 安げな小芳をそう言って送り出すと、瑛翠は引き返したがる脚を叱咤し、どうにか来た道を引き返した。
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