海の声

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 海。それは友達。いつも近くにあって私は海と遊んでいる。まさか、友達が全くいないわけじゃない。友達だっている。今は従兄弟の湊斗といっしょに遊んでいるんだから。  私の遊びって何の遊び? それはね……。 「おーい! 汐莉(しおり)、はやくこいよ」湊斗(みなと)が呼びかけてくる。 「わかってる! 今行く!」  大人より背の高い大きな岩に登ったら、もう目の前は『友達』が広がっている。ぷかぷかと浮く湊斗。そこに私も行く。 「汐莉、なんだよ、怖いのか?」  海に浮かぶ湊斗の声が下から聞こえる。 「怖いはずないよ。いっくよ〜!」  バッチャーン!  空より青い、どこまでも広い海。外から見たら青いのに、中に入るとそれは……。  透き通っていた。目を開いてみると魚たちの泳ぐ姿にイソギンチャクや海藻の揺れる様子にサンゴに貝にと、いろんなものが見える。海っておもしろい。ここにはどんな世界が広がっているんだろう。そうやってちょっとおとぎ話チックなことを考えたりして。  体が自然と浮き上がって顔が水面に出ると、大きく息を吸った。吸ったと同時に笑い声が出てくる。 「やっぱり飛びこみって楽しい!」 「ここの海はきれいって言われるからな。島だし」  ここは周りが海に囲まれた小さな島、胡島。小学校は一つしかないし、いろんなものは定期的に船で運ばれてくるような場所だ。本州はいろんな施設があるらしいけれど、綺麗な海は少ないんだって。 「そうそう。お父さんも同じこと言ってた!」  海は友達、最高の遊び場だ。とくにこの島の海は、どこの海よりもまけない気がする。 「あっ」  湊斗が小さく叫んだ。指のさす方向に小さな魚がいた。白くて、目のまんまるい魚だ。 「かわいい」  その魚は二人の人間に気がつくと方向を変えて急いで泳ぎだす。案の定、湊斗が両手でつかまえようとするので、魚は大急ぎ。尾ビレをすばやく動かしていた。 「この魚どこにいくのかな? 仲間とはぐれっちゃったのかな」  湊斗と私は目を合わせた。ふふふっとお互いに笑う。この魚を追いかけてみよう。小学校二年生同士の私たちは、どうやって海で遊ぶのか考えることが似ている。
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