しゅっぱつしんこう

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 空港の中はとても広くて、僕が歩き回るのには最適だった。ママの横を自分の足で歩いてついいていったり、ときには僕が先導したり、ベビーカーを押してあげたりもした。  その後、つるつるとした床が光って見えるのが怖くなり、ママにしがみついたことは内緒の話だ。  飛行機に乗り込むと、僕は窓側に座ったママのお膝の上に座らされた。とても狭かったが、しばらくはママのメガネを取り上げて噛んでみたり、パパにくすぐられたり、窓の外で動いている乗り物を見たりと、とても楽しい時間を過ごしていた。  何度か女の人の声があたりに響き渡ったあたりから、僕の乗っている飛行機がゆっくりと動き始めた。飛行機はしばらくゆっくりと動き続け、窓の外の乗り物たちも見えなくなり、遊びにも飽きてきてだんだんと僕のご機嫌が傾き始めた、その時だった。  突然ゴーっと音がして、窓の景色の流れが早くなり、体が斜めに傾いた。僕は大きな音と揺れにびっくりし、ママにしっかりとしがみついた。なかなか止まない音に、ただひたすらにママにしがみつくしかなかった。ママが僕をぎゅっと抱きしめ優しくトントンしてくれた。ママの匂い、ぬくもり、心地よいリズム。それらを感じながら、僕はいつしか怖いのも忘れ眠りについていた。
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