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目が覚めると眼の前には大きな建物があった。本日寝泊まりするホテルという場所らしい。中に入りエレベーターに乗った。ママに抱きかかえられながらも一生懸命手を伸ばし、どうにかボタンを触ろうと格闘している間に最上階についた。そのまま廊下を進み一番奥の部屋に入ると、広い空間と大きな窓が目に入った。
なんてことだ、最高じゃないか!
僕はできるだけ腕を上に挙げ体を細くしてママの腕から脱出し、お気に入りの靴で歩き回った。この開放感、たまらない。意気揚々と部屋の奥に進み、ソファに登ろうとしたところでママに止められてしまった。よく見るとソファにはひっくり返した椅子が乗せられていた。周りを見渡すと、カーペットはところどころ剥がされており、白いタオルが何枚も積み重ねられて山になっているところが2箇所ほどある。
パパがママと少し話したあと、部屋の入口側にある受話器をとった。
「ああ、もしもし?今案内された部屋なのですが、もしかしたら工事中的ななにかのような気配が・・・。」
僕はパパの行動を見て、ははあ、そういうことかと理解した。そして期待に沿うべく、手を耳に当ててこう言った。
「はろーでー。」
つまりパパは僕ともしもしをしたいのだ。
もしもしの仕方はsiriという、ママのスマートフォンに住んでいる―たまにパパのスマートフォンにも現れる―に習った。ママが「Hello」と言うと、「Hello there」と返ってくるのを何度も聞いて覚えたのだ。パパやママは時々スマートフォンを耳にあててもしもしをしているし、これで間違いないはずだ。
目の前にいるママは、なぜかニコニコと今にも抱きしめそうな顔でこちらを見ていた。
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