しゅっぱつしんこう

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しゅっぱつしんこう

 いつものように、パパが保育園に迎えに来た。  でもちょっと早いんじゃないか?今さっきおやつを食べたばかりだ。まだおままごとしてない。木の包丁を振り回してない。マグネットのお野菜も切ってない。なんなら夕方のお散歩もまだだ。  でも迎えに来られたからには帰るしかない。遊び足りないが、迎えに来られるのは好きだし、パパのことも好きだし、お家にはママも待ってるし、仕方がないので喜んで抱っこ紐に揺られることにする。  うちに帰ると少し様子が違うことに気がついた。パパとママが少しそわそわしている。何時に出るんだなんだとお話ししている。またか、と僕は思った。  これはお出かけするに違いない。僕にはわかる。なにせ生まれて1年2ヶ月も経つのだ。  カチャリ。ベビーカーに乗せられベルトを締められる。ほら、思ったとおり。  余談だが、ここ最近このベルトというものが曲者であることに気がついた。このカチャリとはめる動作には興味があるし、むしろやつらが個々に離れているときには触りたい、とても気になる存在なのだが、如何せんはめられると抜けられない。僕の自由を奪う憎いやつなのだ。  何度も引っ張ってみたり、押してみたり、しまいには声を出して抵抗してみてもどうにもならない。閉められたら最後、離れないのだ。パパもママも、僕が最後の手段―つまり泣くわけだが―に出るまで外そうとはしない。  まあ、そんなことは今はいい。なにせ向かった先は、僕の好きな電車のはしる、駅、という場所だったからだ。 「きたっ!ばっ!」  遠くに電車を見つけたので、指を指してパパとママにも教える。だんだんと近づいてきてそのまま目の前を走り抜けていく電車に、いつもどおり手を振った。  乗り物というものを見ると何故か気持ちが高揚する。とくにバス。あれはおそらく僕の人生の中で最高にかっこいい乗り物だろう。
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