願いを叶える珠

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願いを叶える珠

 何年前だったか、ていうのは記憶が朧気だけど。  その時のことだけは、今でも鮮明に覚えている。  小学生高学年の時。  私は、ある老人を助けたことがある。  荷物持ちだったか、席を譲ったとか、結構どこにでもあるような、日常で時々見かけるようなそんな他愛のないようなことだった。  けれど、老人はこっちが恐縮してしまうほど感謝してくれて、「お礼を貰ってくれないと死んでしまう」と半ば脅しのような文句を言いながら私にとあるものを無理矢理握らせた。  そして、老人は言った。 「私は力を持っていてね。優しいお前さんにその力を分けてあげよう」  無理矢理握らされたものを見ると、太陽の光の中でもわかるほどの、青を基準とした極彩色の輝きをもつ手のひら大の大きさの球だった。  正に、宝玉、という言葉がふさわしいものだった。  その輝きは、幼心に充分魅力のあるものだった。けれど、まだ物事をよく理解していない幼い頭でも、小学生高学年となれば物の価値はある程度わかるもので、私は「こ、こんな高価なもの」と無駄に光り輝くそれをどうしていいかわからずひたすら戸惑っていた。  でも、老人は皺の刻まれた顔をくしゃりと笑みの形につくり、「いいからいいから、貰ってくれないとショックで年寄りは死んじゃうよ?」と再び脅してきたのだ。 「この球はアンタの願いを一つだけかなえてくれる。その時が来たら、使いなさい。この球はふさわしい願いの時に光ってくれるから」 続けて、老人はこの球を使用するにあたっての注意事項を語った。
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