願いを叶える珠

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『この球はアンタの願いを一つだけかなえてくれる』  すっかり忘れていた記憶なのに。  妙に鮮明に甦るその言葉。  何度も瞬く輝きに誘われるように、気づけば私は珠に手を伸ばしていた。 ――もし  そう、もし。  もしも。  私の今持っている願いが叶うなら。 「……一度だけ、子どもになりたい」  子どもになって、自分の子どもと遊んでみたい  人によってはくだらない願い。  でも、私にとっては切実な願い。  ただ子どもと遊びたいだけじゃない。 ――いや、それももちろん、あるにはあるが 根本的なものは違う。  知りたいのだ  子どもの感情の異変を  子ども内の人間関係を  息子が時折浮かべる、こっちまで泣きそうになる悲しい表情の意味を 「幼稚園児の人間関係を」  そう、呟いた瞬間。  青い球が眩しいぐらい瞬いた。  思わず伸ばしていた手で目をかばった。  輝きで視界が青い光で満たされ、一瞬、無音になった。  と、次の瞬間。  さわさわと耳に触れるような音が、人と人が遠くで言葉を交わす音が耳に飛び込んできて、視界の眩しさが和らいでいった。  目を閉じていても光が見えない程度になってから、恐る恐る目を開けると。  私の視界に見える世界が全て、大きかった。
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