子どもに戻った一日

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子どもに戻った一日

 ぼんやりとした思考と視界の中で、ゆっくりと目だけ動かして辺りを見る。  家具の配置や、モノや、電気の配置などはすべて見覚えのあるものだった。  まだ記憶の新しい、自分の家だ。  だから、我が家にいるのは間違いなかった。 「おはよう、起きなさい」  不意に、どこか聞き覚えのある声が聞こえた。  聞いたことあるような、でもちょっと違うような、そんな声。  妙に大人びた、優しい声だった。  耳に心地よさを感じながらその声の方を向くと、驚くほどの至近距離に顔を近づけて微笑む自分そっくりの顔がそこにあった。  ナニコレ?  まず出てきた感想はそれだった。  信じられない思いで、年齢が伺える肌のでこぼこが少し目立つ自分の顔を見つめていると、目の前の私は「あら、起きてたの。じゃあもう幼稚園に行く時間だから早く朝ご飯を食べてしまいなさい」と言って私の脇の下に手を差し込み、よいしょ、という掛け声とともに私を軽々と持ち上げた。  そのまま椅子に座らされて、どれがいい? と目の前に朝ご飯を並べられた。  おにぎり、たまごやき、トースト、うどん ――私自身が、寝起きの悪い子どもの目を覚まさせるためによく見せる、子どもが好物のメニューだった。  脳が戸惑う中、私の指は自然に動き、おにぎりと卵焼きを指さした。  その指がいつもの半分くらい小さくて驚くも、でもそれがなんだか「まぁそりゃそうだ」とどこか納得している自分がいた。  じわじわ、じわじわと  今の状況を理解していっていた。  今の私は、現実の私であって。  現実の私じゃない。
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