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「どうぞ」
先ほど指した朝ご飯が並べられた子ども用の平皿が目の前にそっと置かれた。とても、優しい声と共に。
まだはっきりしない、夢見心地の中でもお腹はすいていたので私はそれを手に取り、口に運んだ。
うまくつかめなくて、口にも上手く入ってくれなくて、米粒がボロボロと口端や指の間からこぼれたけれど気にせず咀嚼をする。
おいしい。
「おかあさん、おいしいねぇ」
自然と、甘えたようなそんな言葉が出た。
心からの言葉で、本当に自然に出た言葉だった。
そこで、自覚し、気づき、自分がどういう人なのかも急に理解した。
幼い私は理解して、大人の私が頭にいる中、年相応の幼さで「今日、幼稚園?」と大人の自分そっくりの母親に、小首をコテンと横に倒しながら尋ねる。
「そうよ。食べ終えたら、お口とおててを綺麗に拭いて、着替えなさいね」
トイレも忘れずに、と付け加えて、優しい微笑みを浮かべた母親は洗濯機の方へと向いた。
洗濯籠を床に置き、洗濯機の中にある洗い終わったらしい衣服をカゴに詰め込んでいく。
その光景は、見たことはあまりないが、よく私自身が行っている動き。
子どもの視点ではこんな風に見えるんだなぁ、ちょっと滑稽だなぁ、とぼんやりと脳内の大人の私は思った。
一方で、子どもの私は相変わらずポロポロとこぼしながら――服についたものは摘まんで口に運んで綺麗にして――食事を終えると、傍に置いてあった濡れたタオルで卵焼きがついた手と、米粒のついた口を拭いた。
「ごちそーさま」
「はーい。……あ、待ちなさいっ」
私が濡れたタオルを置いて手を合わせ、食事の終わりの挨拶を口にすると、母親が強めの口調で私に言った。
その強めの言葉にビクッと私が固まると、置かれたタオルを手に取り「ほら、まだきちゃない!」と母親は私の手と口を丁寧に、でも力強めに拭いた。
私はそれに、目をぎゅっとつぶって身体を制止させながら応じた。
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