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「さぁ、たけちゃん、になちゃん。もうバスが来ちゃうから、行くよー」
「「はーい」」
母親である自分の言葉に、息子――<たけと>と一緒に手を上げて返事をした。
今の自分の背丈に届きやすい場所にある鞄の紐をとるとそのまま頭を通し肩にかけ、傍に置いてある水筒も同じようにかける。それから帽子をかぶり、バッヂを取ったら母親のもとへ行って「バッヂつけてー!」と持っていき、つけてもらう。後は靴を履いて出発。
私がてきぱきとこなす間、息子は「これでいい?」「ほらできた!」と一つ一つこなすたびに見せに行き、母親が見て頷けば会心の笑顔を浮かべてまた次の――という行動を繰り返していたので数分遅れて準備が終わった。
どれだけ適当な頷きでも、心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべる息子に、頭にいる大人の私の心がズキズキと痛んだ。
けれど、今は小さい子どもである私の口は、年相応の子どもらしく「おにーちゃん遅いよー」と一生懸命さを全て否定するような言葉を吐いた。
それに対し、一瞬ムッとしたような表情を浮かべた息子は「いいのっ」と言って私に両手を突き出した。
ドン、と押され、扉に背中がぶつかった。
別に、痛くはなかった。
所詮は子どもの力。
けれど、息子と変わらない年の私は、意に反してうるっと目を潤ませ、涙腺を崩壊させた。
「あああ~、いたい~」
大声を上げて泣き始める私に、息子はビクッと肩を震わせ、しまったとばかりに「ごめんね、いたい? ごめんね」と必死に私の肩や頭をそっと撫でた。
小さな手が、一生懸命なでていた。
その行動を受けた突如、私の脳裏に、一つの記憶が蘇る。
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