式部の涙

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式部の涙

 テンも揃ってメインのおそばを食べ終えたところで、デザートのシャーベットが運ばれてきた。 「洋菓子『つだ』の店主に聞いて作った。どうだ」  ということは、冷菓店のアイスキャンディとはきょうだいのようなデザートということになる。 「り、りんごだ!」  りんごそのものはあっさりとした甘さなので、りんごの砂糖煮を小さく、さいの目にカットしたものがアクセントに入っている。 「つめたーい。おいしーい。りんごの食感もいいです。さっぱり☆さわやか」  わたしは絶賛したけれど、式部の反応は違った。 「あんた、冷菓店を潰すつもり?」 「試作品だ。他意はない」  ふたりのやりとりを聞き、葛葉は苦笑している。   器用だなあ、テン。わたしはスプーンをくわえながら、テンを見つめた。  みんながこんなによろこんで、笑顔になってくれるお料理の才能、うらやましい。わたしの絵では、ここまで感動させられない。  わたしの、熱い視線に気がついたのか、そうでもないのか、何も言わずにテンはそっと、シャーベットのお代わりをくれた。  ……も、物欲しそうに見えたのか! いい歳して、いやしいと、いじきたないと思われていたらどうしよう。せめて、お礼ぐらいは述べておこう。 「いただきます。ありがとうございます」 「これを食し終えたら、庵の話だな」  一日がすっかり終わったような気持ちでいたけれど、そうだった。発表が残っていた。 *** 「では」  緊張する。テン、葛葉、式部がわたしをじっと見ている。  いつものスケッチブックを取り出す。あまりにも毎日運び歩いているので、角がすり減ってきている。 「わたし、ことばで説明するのが下手なので、いつものように絵にしてみました。絵本、いいえ紙芝居だと思って見てください。式部さんの残した作品と、わたしの推論をミックスさせたお話です。異論は認めます」
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